第四章
[8]前話
「スズには合う感じやけどな」
「それがなんですね」
「そや、どういう訳か気の強いスズにはや」
むしろというのだ。
「ピッチャーを立てる御前が合う様でな」
「何でかわしなんですな」
有田が言った、ここで。
「わしピッチャー立てへんですし自分のリードでいきますけど」
「それでスズに向かい合う様でな」
強気のピッチングと強気のリード、鈴木と有田のそれでというのだ。
「ええみたいやな」
「そういえばスズさんわしのミット見てると燃えるって言うてます」
「その感じやな。スズは速球から変化球主体になってもな」
その変換をさせたのも西本だ、鈴木の速球が衰えたのを見て彼に技巧派への変換をさせたのだ。具体的にはカーブとフォークしか変化球のない鈴木にスライダーとシュートという左右の揺さぶりが出来る球種も覚えさせたのだ。
「そこはな」
「強気ですさかい」
「その強気のスズに御前を向ける」
あえてだ、有田をというのだ。
「そうするわ、後はわしがスズに言う」
「いつも通り」
「あいつをわざとかっかさせてな」
そうして鈴木のテンションを高めさせるというのだ、マウンドに向けるそれを。
「投げさせるわ」
「今日もですね」
「さて、ホームランを打たれてもな」
「それでもですな」
「そうや、出来るだけ減らす」
打たれるホームランをというのだ。
「三振を増やしてな」
「それも監督の仕事ですか」
「そや、ほな今日も野球をやろか」
西本は三色の近鉄の帽子を被りなおしてだった、マウンドを見た。鈴木はまだブルペンにいてマウンドはまだ誰もいない。だが既にだ。
試合のことを考えていた、それでだった。
鈴木は有田を女房役にして投げた、正念場では見事相手を三振に取り勝利投手となった。この試合ではホームランは打たれなかった。
それでだ、西本は勝利インタビューの時にこう言った。
「スズが踏ん張ってくれたわ」
「見事ですね」
「あそこで連続三振ですね」
「あいつは勝ってくれたわ」
勝負、それにというのだ。
「ええこっちゃ」
こう言って自分の仕事のことはいいとして鈴木のことを褒めるのだった、鈴木はこの試合は勝った。このことをよしとしたのである。
奪三振王 完
2015・7・15
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