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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第九話 剣 
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自分の声じゃないようなそれは、たった一言にも関わらず、様々な想いに満ちていた。
 
 恐れ……。

 畏怖……。

 嫉妬……。  

 勝てるとは思えない圧倒的な存在に対し、恐ることなく、勇敢に立ち向かうその姿は、ウェールズの手を取り逃げ出す自分を、余りにも惨めに感じさせた。

 憧れ……。

 羨望……。

 感嘆……。

 巨大な存在に怯える様子を見せず、不敵な笑みを向け、たった一本の剣だけで立ち向かうその姿は、まるで物語の英雄を思わせ、心臓を強く打ちつけ、熱くさせる。

 勇敢……。

 勇者……。

 英雄……。

 
 彼を褒め称える言葉は、いくらでも思い浮かぶのに、何故か口から最初に溢れたのは、『綺麗』だと言う言葉。
 圧倒的な存在に立ち向かう勇気を称える言葉ではなく。恐ることなく、不敵に笑うその豪胆な気性を称える言葉でもなく。ましてや、それらを身に付ける者達の総称でもない。
 何故、綺麗なのか……。 


「ああ……そうなのですね」


 眩いばかりの光を左手から放ちながら、士郎が両手で握りしめたデルフリンガーを、巨大な竜巻に向け振り下ろす姿を目にした瞬間、アンリエッタは唐突に理解した。

 今、この場でウェールズの手を取っているにも関わらず、未だトリステインとウェールズを選べず、ふらふらとしている自分の目には、絶対にウェールズの手から取り戻すと決意を固めた彼の姿が、余りにも揺るがずに見え。
 上官からの命令、名誉、報酬、保身等、様々な思惑が入り混じった思いから助けに来る者達とは違い、ただ、不幸になろうとする者を助けるという一心のみで助けに来る彼は、余りにも美しく。


「あなたは……まるで……」

 
 硬く揺るがず、尊い意志で剣を振るう彼の姿は……。


「一振りの……剣……」   










 急速に近付く竜巻の威容に、背筋が粟立つ。まるでビルだな。地を舐めるように進む士郎は、進む先の竜巻に苦笑を浮かべる。アンリエッタとウェールズが同時に呪文を唱え始めるのを見た士郎は、今までの経験から、デカイのが来ると予想し、事前に全身の強化を済ませていた。

 水を纏った竜巻……か。これ程の魔術は、滅多にお目にかからないな。一人なら、竜巻を避ければいいだけの話しだが……後ろにはルイズ達がいる。
 デルフリンガーを握っていない左手に視線をやる。左手に刻まれたルーンは、微かに光っているだけだ。『ガンダールヴ』の力は、あらゆる武器を使いこなす……。確かに、その力は凄いとしか言い様がないが……。
 ガンダールヴには、身体強化の力もある。
 デルフが言っていた。『ガンダールヴ』の力は、心が強く震えれば震える程強くなると……そして、
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