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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十一話 講和交渉
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は制度ではない、主権者に有るのだ。何故そこを見ないのか。

「民主共和政では主権者の質よりも量に重きを置きがちです。その事をまだ理解出来ませんか? ゼロは幾ら足してもゼロですよ」
「……」
「残念ですが人類は民主共和政を運用出来るほど政治的に成熟しているとは思えません。成熟しているなら私と議長がこうして話す事も無かった。そうでしょう?」
トリューニヒトが視線を落とした。

主権者の数が多くなればなるほど、主権者は自分の持つ主権の重さを感じなくなる。百人の中の一票と百億人の中の一票、同じ重さだと言えるだろうか? 自分の持つ一票の重みなど大した事は無い、そう思ってしまうだろう。そうなれば主権の行使が程度の差はあれ恣意的になってくる。つまり政治への無関心という恐るべき事態が生じるのだ。そして統治者達は主権者の歓心を得るために主権者に迎合するようになるだろう。そこには統治において最も大切な冷徹さは無い。そう、人類は民主共和政を運用出来るほどには政治的に成熟していないのだ。

「市民の声を統治に反映させる必要性は認めます。しかしその事と民主政体を採る事は別問題でしょう。民主政体を採らずとも市民の声を統治に反映させる事は出来る筈です」
「……」
極端な話を言えば世論調査をするだけでも良いのだ、そのうえで統治に何処まで世論を反映させるか検討する。ゼロの場合も有れば百の場合もあるだろう。そしてその事を判断理由と共に国民に伝えれば良い。国民は自分達の意見を政府が検討している、統治に取り入れていると理解する筈だ。トリューニヒトは視線を下に落としたままだった。



宇宙暦 799年 4月 29日    ハイネセン 最高評議会ビル  ジョアン・レベロ



最高評議会ビルの議長の執務室に三人の男が集まった。トリューニヒト、ホアン、そして私。トリューニヒトは何時もと様子が違う、沈痛な表情を浮かべて椅子に座っている。ヴァレンシュタイン元帥との会談でかなり疲れた様だ。
「如何だった、ヴァレンシュタイン元帥との会談は」
私が問うとトリューニヒトが“うむ”と言った。

「容易ならん相手だ。まだ若いのだな、かなり先を見据えている」
妙な表現だ。“容易ならん相手”というのは分かる。これまで嫌というほど痛い目に有って来た。しかし“まだ若い”、相手を揶揄しているようにも聞こえるが“先を見据えている”、となれば揶揄ではない。ホアンも眉を寄せている、不審に思ったのだろう。

「ヴァレンシュタイン元帥は直ぐには同盟を併合しないと言っていた」
「どういう事かな、トリューニヒト」
「彼は三十年後に同盟を併合すると言ったんだ、ホアン」
「三十年後?」
思わず声が出た。ホアンの顔を見た、彼も訝しんでいる。

「どういう事だ?」
私が問い掛けるとト
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