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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二十一話 貧乏くじ
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ンベルク元帥とミュッケンベルガー元帥は各艦隊の厄介者も異動させたんだ。その異動先の一つが……」
「この艦隊か……」
エーリッヒが頷く。どうりで酷いはずだ。
「本来ならそれで問題は無かった。ミュッケンベルガー元帥はこの艦隊を前線に出す気が無かったからだ。出すとしても単独行動だろう。反乱軍との戦闘の決戦部隊としてじゃない」
「そうなのか」
「当初この艦隊には参謀長がいなかった。参謀長のいない艦隊なんて有るかい? 出撃が決まってあわてて私に決まったのさ。ミュッケンベルガー元帥はこの艦隊を前線に出す気が無かったというのはそういうことさ」
「ではなぜ?」
「グリンメルスハウゼン提督が出撃を希望した。悪い事に陛下が好きにさせてやれとミュッケンベルガー元帥に言ったらしい」
「……」
「勅命があったようなものだ。ミュッケンベルガー元帥としてもどうしようもない。貧乏くじというのはそういうことさ」
エーリッヒは自嘲するかのように話した。かなり参っているようだ。こんな顔をする奴じゃなかったんだが。
「最初から判っていたのか」
「グリンメルスハウゼン提督が出撃を希望した事、そして陛下の意向があったことは知っていた。この艦隊の裏の事情がわかったのは参謀長になってからだ。卿を副参謀長にと頼んだのは参謀たちが何処まで私に協力してくれるかわからなかったからだ。実質は私と卿でこの艦隊を動かす事になるだろうと思っていた」
「そうか……」
「大佐で参謀長というのが罠だというのは判っていた。グリンメルスハウゼン提督のお守りをさせる気だというのはね。しかし此処まで酷い事になっているとは思わなかった。甘かった」
うめくように言うエーリッヒを責める事は出来なかった。エーリッヒは慎重な男だ。時には驚くような大胆さを見せるときもあるがだいたいにおいて慎重だといっていい。俺がエーリッヒの立場だったらどうだろう。副参謀長には信頼できる奴を選ぶ、エーリッヒだ。
「貧乏くじかどうか、まだ結果は出ていないだろう」
「……」
「そんな顔をするな、エーリッヒ。二人でやれば何とかなるさ」
「……」
「サイオキシン麻薬事件だって何とかなったじゃないか。今回はギュンターの代わりに俺がいる。うまくいくさ」
「そうだね、確かにそうだ。まだ落ち込むには早すぎるようだ。頼みにしているよナイトハルト」
エーリッヒは木漏れ日のような笑顔を見せた。こいつは昔から俺たちに対してだけこの手の笑いを見せる。容貌が容貌だけに何ともいえない甘やかさだ。俺は一瞬だが見とれてしまい苦笑した。無邪気に微笑むエーリッヒには先程までの暗さは無い。そう、俺たちは大丈夫だ、きっと上手くいく。頼りにしているぞエーリッヒ、だから俺にも頼ってくれ。
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