第一章
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サラファン
ロシアは寒い、それで冬は他の国とは比較にならないまでの厚着になり女性達はあえて太って冬に備える。
しかしだ、ゴーリキー郊外に住むエレナ婆さんは孫達に三重の窓で暖房が効いた家の中でこんなことを言っていた。
「あんた達が大人になったらね」
「その時はだよね」
「お祖母ちゃんやお祖父ちゃんが大事にしている服を」
「くれるのよね」
「僕達に」
「そうだよ、特にね」
孫達の中で唯一の女の子であるエリザベータを見てだ、婆さんはにこりと笑って言った。
「エリザベータ、あんたにはね」
「お祖母ちゃんの服を」
「全部あげるよ」
こう優しい顔で言うのだった、暖炉の傍で安楽椅子に座って娘の幼い頃そのままの顔の孫娘のその顔を見ながら。孫達は婆さんを囲んでそれぞれ座っている。
「サラファンもね」
「あの服もなの」
「ああ、あげるよ」
こう優しい顔で言うのだ。
「あの服もね」
「お祖母ちゃんのサラファン奇麗よね」
「あれはお祖母ちゃんがまだ娘の頃にね」
まだその頃にというのだ。
「お祖母ちゃんのお母ちゃんに貰ったんだよ」
「ひいお祖母ちゃんに」
「そうだよ、もう四十年も前だね」
婆さんにとっては思い出す位の昔だがエリザベータ達にとっては想像も出来ない昔だ。
「それで皆のお母さんにもあげたけれど」
「どうして今もお祖母ちゃんが持ってるの?」
「お母さんは今一つサラファンが好きでなくてね」
それでというのだ。
「お祖母ちゃんに返したんだよ」
「そうだったの」
「けれどエリザベータがあのサラファンを好きになったら」
その時はというのだ。
「エリザベータにあげるよ」
「それじゃあ」
「その時までお祖母ちゃんもお祖父ちゃんも元気にしてるから」
それでというのだ。
「皆その時まですくすくと育つんだよ」
「うん、私もよね」
「勿論だよ」
それこそとだ、婆さんはエリザベータのその栗色の瞳に薄い茶色の奇麗な長い髪とだ。白く卵型で楚々とした感じの顔を見ながら言った、本当に娘のエカテリーナとそっくりである。
「元気にね」
「うん、そうなるね」
「ただね」
「ただ?」
「エレナは太らないでいいからね」
「どうしてなの?」
「昔はお婆さんは太っていたけれど」
実際婆さんも太っている、寒くてそれに備えて太るのだ。ロシアの寒さはそうでもしないと防げるものではないからだ。
「最近そこも違うからね」
「そういえばお母さんは」
「すらっとしてるね」
「お祖母ちゃんと違ってね」
「だからね、エリザベータもね」
彼女もというのだ。
「太らなくていいんだよ」
「そうなのね」
「お婆さんになってもね」
「お婆ちゃんになったら太るって思ってた
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