第3章 黄昏のノクターン 2022/12
33話 漆黒の猛禽
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「お嬢さん。やる気があるのは結構だが肩の力を抜くといい。良い仕事とは、いつも通りの平常心から自ずと仕上がっているものだ」
「………はい」
しかし、余裕を崩さないコルネリオはクーネに気軽に声を掛ける。俺以外とは初の会話となるのだが、それでもNPCが能動的に会話を持ち掛けるというのは稀有な例だろう。もっとも、ティルネルには及ばないであろうが、彼も中々に複雑なアルゴリズムに則してで行動しているようにも思える。
………と、コルネリオについての考察もそこそこに、俺達はアジトを後にする。見張りが頭を下げて左右に分かれて送り出すなど、やはりボスが居なくては見られないような光景なのだろうか。
「それでは先ず、水運ギルドの本部まで足を運ぶとしよう。私が案内するので、君達には船を用意してもらいたい」
そして、今はコルネリオの言うままに行動するしか方法はないので、早急にゴンドラに搭乗して水路へと漕ぎ出す。周囲の水運ギルドの船は、これまで警戒していた筈の組織のボスが白昼の下に姿を現したにも関わらず、何食わぬ顔で平時の業務を粛々とこなしている。いわば彼等も密貿易の加担者であるのだが、当のボスも一切興味を示さないでいる有り様だ。
「これは、ロモロ殿が拵えた船か。彼は私の名前を決めてくれた大切な人物でね。だからこそ懇意にさせてもらっているのだが、この船は結構値が張ったんじゃないか?」
「ううん、材料だけでお金は払わなかったよ?」
ふと、周囲の水運ギルドなどそっちのけで、キズメル号の作者を言い当てたコルネリオの問いかけに、ヒヨリが答える。
「………そうか。だとしたら、かなり得をしたことになるな」
「どうして?」
「彼に船を造らせれば、それだけで新居が一軒建つと言われるほどだ。金額については………別に知らなくても問題はないだろう」
「しんきょ、って、新しいお家のこと?………一軒って、一軒ってこと?」
コルネリオの話を聞いて、ヒヨリは景色と共に過ぎてゆく民家とキズメル号を交互に見つつ、要領の得ない自問自答を繰り返す。
「フフッ、私にも君と彼女くらいの娘がいてね。少しからかうと、ちょうどこんな風になるんだよ」
「………そのうち頭から湯気が出てくるから、ほどほどにな」
「なんと、それは悪いことをした」
本心か否かはさておき、冷淡に思えたコルネリオが、執務室で初めて見た時よりも色彩豊かな印象に変化しつつある。想像していたよりも可愛げのある性格なのかも知れない。
その後も歓談を楽しみつつ――――ヒヨリは終始遊ばれていたが――――、ゴンドラは商業エリアの端にある倉庫区画の最奥、赤いレンガ造りの壁にツタの茂る、歴史を感じさせるような大型の建物の前にて、停船の指示が出される。
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