交節・紅と桜、蠍と斧
[5/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
空気ですらも、愉悦と狂乱から歪んで見える。
第三者がこの光景を目にしたならば、並の者で“無かろう”とも震えが止まらないだろう。
もしかすると、『人』として認識出来ないかもしれない。
それほどまでに……今の彼女は、壊れていた。
「あっはぁ!!」
喉笛を切り裂いた筈なのに、勢いから肩肉までもごっそりと抉り取られ、己の武器の破片と共にコボルドは散って行った。
……散って行ったのに、アマリから放たれる強烈な『恐怖』は未だ、頑なに霧散しようとはしない。
寧ろ段々と濃度を増して行き、行き場を探して暴れているようにも感じられた。
アマリの餌食となるのは、果たしてモンスターなのか、それとも同士である筈の“人間”なのか。
と―――
「あは……」
ユラーリユラリと揺すられる身体が唐突に硬直し、全ての身動きが停止する。
「あっはぁ!」
途端、グリン! とあらぬ方向へ首も身体も曲げられる。
アバターでなければ、人間には不可能な角度と動きでその方向を見つめ、膝を曲げてから間髪置かず轟音と共に飛ぶ。
その視線の先に居るのは……なんと有ろう事か、背の低い一人のプレイヤー。
遺跡の壁を感慨深そうに見つめ、仮想世界にある仮初の設定に思いを馳せているようにも見える。
そのプレイヤーは何もしてない、何か罪を犯している訳でもない。
元より、アマリの記憶の中に、そのプレイヤーの影の重なる者は存在しない。
いや、そもそもそんな事は、アマリには元から関係が無いのだ。
彼女の『絶対的』基準はフォラスの感情、フォラスの思考、フォラスの存在。
故に、有象無象がどうなろうと心も痛まない、禁則を犯したとも思わない。
―――行く末も繋がりも、知った事ですらないのだから。
「…………? ……おや?」
後残り二メートルの位置で、今更声からして女性と思わしきプレイヤーも、アマリに気が付き振り向く……だが遅い。
彼女の背にある複合武器“スコーピオン”を構える余裕も、静から動へ切り替える暇も、何が襲いかかってきているのか思考する時間も、根こそぎ奪い去る烈度で―――
「あっはぁっ!!!」
アマリの無慈悲な斧が、いっそ豪快なまで横薙ぎにされた。
一合の元に両断され、知覚が強制的に引き上げられた影響からか、アマリの目にスローモーションで、乗っかっていた“上”の落ちる様が映り込む。
そのまま……音も無くずり落ちていった。
「……?」
―――――筈なのに、ポリゴンに変わる間もなく、赤い影となって掻き消えた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ