第一部
第二章 〜幽州戦記〜
九 〜軍師たち〜
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よ、救われぬものとなるじゃろう」
丁原は、大きくため息をつく。
「ワシはもう長くない。後事は月に託すつもりじゃ」
「しかし、丁原殿。董卓殿は権力に固執せぬ、との事でござった。とは申せ、呂布殿ほどの猛者を手元に置いては諸侯の警戒心を呼び起こすには十分かと」
「……やはり貴殿、並の男ではないな。ワシは、それも懸念しておる。……あのような、清らかな心を持つ娘達が、このような魑魅魍魎の世に生きなければならぬ、とは何とも不条理な限りじゃ」
「然様ですな。世の乱れようから見て、朝廷の有様も大凡、推察がつき申す」
「のう、土方殿」
「……は」
「貴殿、このまま義勇軍にて終わるつもりかな?」
「……さて。先の事はわかりませぬ。今の拙者は、あまりにも微力でござれば」
「今は、な。だが、既に貴殿の功は、並々ならぬものじゃ。田舎の県令や県長程度であれば、確実に任じられる程度には、な」
「拙者には、それが妥当かどうかすらもわかりませぬ」
「考えてみればわかる事じゃ。やれ将軍だ、刺史だ、という者どもが挙って賊討伐に動いておるのじゃ。なのに、何故にここまで手間取る?」
「……思いの外、賊の数が多いからでは?」
「そうじゃ。それに、官軍の弱体ぶりもある。貴殿も見たであろう、朱儁将軍麾下の有様を」
「はっ。……正直、想像以上でした」
「あれが、今の官軍そのものよ。己の利と権力のみに汲々とし、民の暮らしや国の行く末など、顧みる事のない輩ばかりじゃ」
よほど、腹に据えかねているのか。
丁原の憤りは、相当なものだ。
「世はますます、麻の如く乱れよう。黄巾党どもを全て討ち果たした、としてもじゃ」
「丁原殿……」
「だが、苦しむのはいつも民じゃ。その負の連鎖は、誰かが断ち切らねばなるまい。例えば、貴殿などがな」
「拙者に、朝廷を打倒せよ。……そう仰せられるか?」
「そうではない。無論、それも一つの道ではあるが……それは力で奪い取った権力に過ぎぬ。それがどうなるか、歴史が示していよう」
「難しき命題にござるな」
「うむ。じゃが、ワシは貴殿ならばあるいは、と思っておるのじゃ。……万が一あらば、月と恋の事も、頼みたい」
「……拙者を、何故そこまで買って下さる?」
「さて、の。年を取ると、いろいろと見えてくるものがある。貴殿の事も、その一つじゃて……ゴホッ、ゴホッ!」
また、丁原は激しく咳き込み始めた。
「む、これはいかぬ。丁原殿、お休み下され」
「ゴホッ、ゴホッ。……いつもの発作じゃ、気になさるな」
「しかし……」
「じきに収まる」
やはり、無理にでも休ませた方が良い。
「さ、我が天幕をお使い下され」
「……済まぬな。造作をかける」
夜になった。
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