風吹きて月は輝き
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んだろうに。
如何に悪辣な袁家であろうと、関係の無い赤子や老人まで虐殺し、あまつさえそれを陛下に黙認させるような輩がまっとうな使者を送るとは思っていなかったが、その通りかい。名が泣くぞ、夏候惇、それに程c」
威圧とブレない声は、臣下達や西涼の有力者達を安堵させるには十分だった。一声で取り払われた室内の空気は、馬騰による思考誘導で今度は敵意に溢れかえる。
ただし……軍師が戦場に何の準備もせずに現れるわけがない。其処を馬騰は読み間違えた。
「おやおや、まさかまさかですねー。
この子の存在を疑っているというのなら、その疑惑を晴らしてみましょうか。
実はもう一通、文を預かっておりまして……」
袖の中から取り出した書簡を紐解くことなく、風はそれを持ったままで馬騰の元に歩み寄って行く。
すっと掲げた後、彼女はにっこりとほほ笑んだ。
「前の戦の結末を言い訳にして疑われるのは目に見えていたので、証拠を準備しました。
漢の忠臣とまで謳われるモノが嘘など吐くはずがない、嘘を吐かぬ場合はこれを出すなと仰せつかっておりましたが、仕方ありませんよねー」
まさか、と馬騰の頬に冷や汗が伝う。翠も蒲公英も、他の者達も不安そうに彼女を見つめていた。
反して春蘭は目を伏せた。誇り高き武人としての馬騰が真実を暴かれる姿を、見たくなくて。
月は……ただただ、微笑みを浮かべながら、馬騰を見つめていた。
「皇帝陛下は董卓と懇意にあったそうですので、当然のことながら専属侍女の顔も知っていらっしゃいました。そしてこの子は……馬騰様と董卓が対面したことがあると言ってます。この子が嘘をつくことは有りません。それは馬騰様ご自身がよぉくご理解されていると思われますけど。
さて、風は皇帝陛下の臣ですので、馬騰様の言を信じることは出来ません。ややっ、どうしたことでしょー? まさか皇帝陛下を疑うモノなんてこの中に居るはずないですよねー? なにせ、漢の忠臣、ですもんねー?」
おどけた調子の言葉であるのに、ズシリと馬騰達の胸に圧しかかる。
目を通せば、その文の字が誰のモノかは一目瞭然。絶対の臣だと自負する馬騰は、幼き劉協の文を見間違わなかった。あまつさえ……劉協本人の指印、馬騰の知っている都の文官の押印までされていた。
――董卓が、生きていた。これじゃおれは……
その沈黙が何よりの答え。その場にいる者達の心に不安の雲が湧き立って行く。
「か、母様? な、なんで黙ってるんだよ……」
「おばさま……?」
二人は知らなかっただけだ。自分達が漢の臣であると信じて、信じて、信じ抜いていた。
義を大切にする誇り高き一族なのだと。友を見捨てることなどしないのだと。真っ直ぐに育っているからこそ、彼女達は母を信じてやま
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