風吹きて月は輝き
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その後の董卓の反乱は何処かおかしいと、私は訝しんでいた。
あの連合戦、最後に洛陽は燃えた。董卓が逃亡を図る為に燃やしたと思っていたのだが……なんと袁家が燃やしたらしい」
ざわり、と文官達がざわめく。隣と、後ろと、前と……何故、と疑問を零し合う。
靴を一つ馬騰が鳴らした。それによってまた場は静寂に引き戻された。
白々しいと思いつつも顔に出さず、彼女は首を頷けるだけで続きを促した。
「袁家のモノ達は洗いざらい吐いてくれた。正義を語ったかの連合は欺瞞に溢れていたと。
袁家主導で行われしあの大乱は、陛下の元に召し抱えられた董卓と、董卓を指示する十常寺を失墜させる為に上げられた欺瞞正義であったと。
なんとまあ、浅ましきこと。我らは袁家に踊らされていたらしいぞ。董卓は正義であったのだ。我らは……陛下の臣にあるまじき間違いをしてしまったのだ。陛下は憂いからか、はたまた袁家という大罪人が滅びたからか、最近になって漸くその事を話してくれたのだ」
またざわめきそうになる室内に、今度は風の咳払いが響く。
共通認識として居座っている董卓憎しという感情は、この西涼でも大きい。しかし西涼の民にあるのは憎しよりも恐れが大きかった。
涼州を纏めていた実力者が悪に落ちたとなれば、世間の目は厳しくなるモノだ。西涼はあまり被害を受けなかったが、董卓の血族の住む天水等はそれはもう酷いモノであったらしい。
董卓の親は自刃し、生き残った親族は蔑まれ追い込まれ、配下であったモノの家族も日陰暮らしに落ちていた。
間近で見聞きできる事柄であるからこそ、その原因が偽りであったと明かされた今、被害を被ったモノでなくともその衝撃は大きかった。
誰もがその文の内容に興味を持った。続きが気になる。あの曹孟徳が己の非を認めたことも相まって、文官の意識は惹きつけられた。
――女狐め。本心ではないことをつらつらと……
ただ、馬騰は覇王とまで呼ばれるモノを見誤らない。文官の中には馬騰と同じようなモノもいるがごく少数。皇帝の名をだされようとも、事実を言っていようとも、文を送った相手を侮らない。
だがどちらも、覇王の狙い、そして風の狙いには気付かない。
「陛下にその旨を伝えれば、悪しきは絵図を描いた袁家であり、董卓を知らぬ私に罪はないが……せめて、袁家を討ち取った功は、亡き英雄に捧げよとおっしゃられた。陛下の懐の深きを感じ、より一層の忠を尽くそうと思う」
そこまで聞いて、馬騰の表情が固まる。
――董卓を知らぬから罪は無い……?
違和感はそこだった。敢えて際立たされたようなその一文が、逆転された人物評価よりも異常だった。
金髪の小さな少女がじっと見つめていた。エメラルド色に輝くその奥底には、冷たい冷たい光があった
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