風吹きて月は輝き
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「お初にお目に掛かる、馬寿成殿。我が主、曹孟徳が一の臣、夏候元譲。主が意向をお伝えする為に参った次第に」
「お初にー。程cと申します。右に同じく、我が主が望みをお伝えする為に参上した次第です」
普段より堅くなりながらもどうにか語り切った春蘭と、ゆるりと普段通りの声で流した風。
対照的な二人の後ろでは、侍女の姿で仰々しく書簡を掲げ持つ月が……静かに、馬騰に微笑んだ。
――やはり……あれは董卓。
微笑みに確信する。
生きていたのか、とは言えるはずもない。こんな場でそんな話題を投げかけるわけにはいかない。
胸にジクリと湧く感情があった。それが何かは、馬騰も久しく忘れていた。掌をじっとりと湿らせるその感情は……恐怖だった。
当たり前のことだ。隣の州の太守で、共に外界からの侵略者を追い返していた一族の末裔なのだが……顔を知っていながら切り捨てた英雄の一人が、どんな負の感情を宿していることか。
春蘭の側まで寄った月が頭を下げてから書簡を差し出す。その一挙手一投足が気になって仕方なかった。馬騰にとって、春蘭よりも風よりも、月の方が警戒に値していた。
するすると紐を解かれた書簡の端に目を向けて、春蘭が流麗な声を流して行った。
「では……拝啓、西を守護してきた英雄殿。冬の蓄えが気になりだす今日この頃、如何お過ごしか。
北の大地との交流が盛んになった今でこそ分かるが、大陸の冬はやはり厳しく恐ろしい。まあ、こちらの領地は収穫に恵まれている為に問題はなく、人民の多くは暖かき冬を迎えられると思う。
さて……あだしごとはさておきつ、今回の本題を話そう。
かの袁家滅亡は其方も耳に聴こえていると思う。董卓の乱では見事に陛下を救い出したにも関わらず我欲を満たす為に北の英雄の大地を奪い取り、陛下のご愛顧を賜った劉玄徳が大地に侵攻し、あまつさえ皇帝陛下の膝元にまで攻め寄せてくる始末。
ご安心なされませ。陛下の臣であるこの曹孟徳と、我が盟友である黒き大徳、そして愛しき我が臣下達の助力もあり、陛下の御威光に以って袁家の腐敗は取り除かれた。袁麗羽という最も忠実な陛下の臣を作り上げたことも、問題なく終焉を迎える為であること理解されていると思う。二度と腐敗せぬよう袁家全てに必罰を以ってして、此度の大乱は集結した」
すらすらと読まれた内容は情報の通り。少しばかり癪な言い回しをされて不快に眉を歪めるモノが多いが、ただ事実を並べてあるだけの文を邪魔するほど野暮ではない。
じっと聞いている文官や馬騰の前で、春蘭は尚も続けて行く。
「が、しかし。袁家の内部情報を洗っていく内に……面白い真実が分かった。其方の娘も参加したあの戦……反董卓連合について語ろうと思う。
前々から不審には思っていたのだ。黄巾の乱は別として、
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