風吹きて月は輝き
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ではではー、失礼いたしました。此度の謁見のこと、皆さんでよく話し合ってくださいねー。漢の忠臣とは何ぞや、と」
先に出ることはせずに止まっていた春蘭に並んで、月と風は謁見の間を後にした。
室内は異様な空気に支配されていた。
曹操軍の宣戦布告にたじろぐモノも居る。覚悟を決めて心を高めるモノも居る。真っ青な顔で俯くモノも居た。
皆の心には一つの言葉が突き刺さっていた。
漢の忠臣とは何ぞや。
風が去り際に打ち込んだ楔は、馬騰や翠や蒲公英に対してではなく、それ以外の者達の足並みを乱す為であった。
それを分かっているからこそ、西涼の太守は瞼を閉じて口を噤む。
今はもう、自分が何を言ってもダメだ、と。
行動で示すことこそが、皆の心を纏める為の方法だと……ずっと昔から繰り返していた為に。
ふと、彼女は思い出す。
自分が思い描いていた道筋とは大きく変わってしまったことは、旧き敵が命を賭けてまで繋ごうとしている策が台無しになる事だと。
――悪龍……お前の策は筋書には嵌ってるけど乱れちまってるみたいだ。でもこれで、おれは劉備を頼るしかなくなっちまった。お前の描いた絵図の通りに。
小さく首を振る。
たった一人の少女によって引っくり返された乱世の様相は戻らない。
いけ好かない悪龍の狙いの通りに、西涼は劉備と手を組むしかなくなった。
――感謝するよ、華佗。おれは最後の最後に大仕事を遣り切れる。癪だけど此処で覇王を殺しさえすれば……きっと、侵略の無くなる、平和な大陸になるはずだから。
しばらく彼女は、皆がざわめく室内で目を瞑って想いを馳せる。生まれた時から今までの、長いようで短かった人生に。
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