風吹きて月は輝き
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っていろ」
丸めた使者としての文をぽいと投げやりながら春蘭は言う。官位など意にも介さず不敵に笑って。
「私もお前が気に喰わん。月を……真月の輝きを知りながら全力を尽くさんかったお前がな。
誰かのように野心があるのなら理解し、納得出来た。自らの力を高める為に切り捨てる選択肢を取ったのなら称賛すらした。
しかし、現状維持を選択し、一時的な逃げに走ったお前には不快感しか浮かばない。西涼連合を纏め上げた所業を思えば……“覇王に最も近しいモノ”かと思ったが、所詮は綺麗事を並べるだけの矛盾した臆病者だ。
せめて馬寿成という武人として、そして西涼の太守として、誇りを持ちて抗ってくれることを願うぞ」
風を見た。しょうがない人ですねとため息をついていた。
月を見た。優しい微笑みは、春蘭が何を想っているかを読み取っていた。
居辛い空気の中でも三人は、何も気にしていないとお辞儀を一つ、そして両手を前に掲げて礼を一つ。
「ではこれにて。
我、夏候元譲、西涼太守馬騰より敵対の意を得たり。よって後日、此の西涼の大地を我が主と共に頂きに参上致す。
まだ生きたければ覇王に忠誠を誓うべし。大切なモノを守りたくば覇王に心底から頭を垂れるべし。永久の服従を約すモノは全て覇王の臣なり。
自らの誇りを示したくば、力を示す為に覇王の前に現れよ。殴って、殴って、殴り抜いて、その気高き魂を我が主に捧げよ。乱世を彩る華として散るもよきかな。その時は、この魏武の大剣の名に於いて、そのモノの名を先の世に刻もう。
ではな、馬騰。次は戦場で会おう。敬愛する愛しき主と、我ら魏の五将軍が……西涼の英雄に完全な敗北を教えてやる」
もう用は無い、と彼女は背を向ける。
倣って風も月も踵を返した。
ギシリ、と歯を噛みしめた翠と蒲公英を見もせず立ち去る寸前……思い出したように、月は馬騰に振り向いて声を上げた。
「大病に掛かっていた貴女を華佗というお医者様が治療した、と聞きました。何処にいらっしゃいますか?」
「……教えるとでも?」
風も振り向き、月が口を開く前にと言葉を並べ始める。
「おお、居るんですねー? でしたら……街中を引っ繰り返してでも身柄を頂きますのでご理解ください。
華佗さんしか治せない病気に掛かっている人が居ますから“神医”が必要なのです。皇帝陛下のお気に入りの方なので、出来れば直ぐにでもお連れしてくだされば嬉しいのですが」
「……今はこの城に居ない」
じっと、風の目が馬騰を射抜く。
嘘か真かを見極める彼女の瞳は、僅かに思案したその所作を見逃さなかった。
眠たげな瞼を一度閉じて、彼女はふっと笑った。
「そですかー。でしたら仕方ありません。次に来た時にお話しさせて貰うことにしましょう
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