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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 3
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「情けなくても良いから、情けないなりに必死で続けなさい。ここで挫けて無力に嘆いても、後でもっと情けなくなるだけよ。それはもう、惨めすぎて泣けるくらいにね。『一番ダメな奴』の典型を教えてあげましょうか?」

 近くの木の枝に寝そべって片手をブラブラさせてる私を。
 瞬いたハチミツ玉が見上げる。

「自分を『ダメだ』『無力だ』と評しつつ、改善行動一つしようとしない、改善を考えることすらしない、自己陶酔型の甘えん坊よ」
「自己陶酔」
「そ。どこの誰にだって、出来不出来はあるし、向き不向きもある。そんな当然の前提もそっち退けで、『皆にできることが自分にはできない。自分はなんて情けないんだ』とか、他人をバカにしてるわよね。産まれたばかりの赤子に狩りができる? 料理ができる? そんなモノは大なり小なり適性と経験と反復学習の積み重ねでしょう。飽厭(ほうえん)を理由に途中で投げ出した奴が、何を身に付けられるっていうのかしらね? バカバカしい。
 インコみたいに「できて当然。できない奴は無能」って空っぽなセリフを連発する第三者も、結局それが言いたいだけのノータリンばっかりだしね」

 せっかく身に付けた能力だって、放置すれば錆びる一方。
 だからこそ、あんたの無自覚は許せないの。
 私の頭痛を抑えられるのは、目下あんたの歌しかないのに。
 卑小な心根で潰そうなんて、私に対して迷惑よ。

「グリディナさんって、僕より人間っぽいかも」
「失礼ね! 純血統の悪魔に向かって!」
「ごめん。僕なりの称賛のつもり」

 手の甲で頬を拭ったカールが、可愛らしくにこっと笑う。

 …………ん?
 いやいや。
 男に可愛らしいとか、おかしいでしょ自分。

「うん。できなくてもやらないと、木にも失礼だよね」

 お。反応が良くなってる。
 自分でやることの意味に気付きだしたかな。
 真剣な表情で道具を握り直して、木と向かい合った。

 良いわ。その調子よ、カール。
 頑張って自立して。
 主に、私の頭痛を癒す為にね……って

「カール!」
「う、ぶぐぅっ!?」

 枝を飛び降り。
 今まさに裁断を再開しようと構えた背中へ ドカッと体当たる。

「みぎゃぁああ!?」

 地面に重なって伏せた二人の目の前に。
 体当たりの勢いで吹っ飛んだ伐採道具の薄刃が落ちてきた。
 でも、それは問題じゃない。

「グリディナさっ……、胸! 少しは気にしてくださいってば!」

 そっちでもない!

「性欲は横に置いときなさい! 急いで立って!」
「え?」

 跳ね起きて後方を振り返れば、地面に黒い穴がぽっかり空いていた。

「あ、な?」

 のそのそと立ち上がったカールを背に庇い、身構える。
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