8部分:第八章
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第八章
「沙代子さんはもう」
「おわかりになられませんでしたよね」
前を見たままの姿勢は変わらない。言葉だけを彼にかけているのはそのままだった。
「それについては」
「はあ、全然です」
そのことも正直に認めた。
「そうだったんですか」
「ですから。お嬢様も人間です」
またこのことを彼に話した。
「嬉しい時は嬉しいんですよ」
「僕の告白が」
「お嬢様のことはずっと御覧になっておられましたね」
このことを言われてギクリとする直弥であった。
「えっ!?」
「お嬢様は気付かれていたようですよ」
「まさか、それは」
「一文字様だとは思わなかったそうです」
「そうですか」
まずはそれを聞いて一安心であった。自分のいるその席でほっと胸を撫で下ろす。
「それは何よりです」
「それでも。視線は感じておられましたし」
「それはですか」
「見られていて気にはなっておられたそうです」
そこまで気付いていたということなのだった。沙代子はかなり鋭いようである。
「そしてその貴方が勇気を出して告白されましたね」
「ずっと何時にしようかって思っていたんです」
自分の席で俯いている直弥だった。
「言おうか言おうかって。けれど中々言えなくて」
「こういうことって勇気がいりますしね」
「死ぬ気でいきました」
三日前のことだがもう大昔のように思える。その大昔のことを思い出しただけでも胸が詰まる。それもどうしようもなく詰まるのを感じていた。
「本当に」
「お嬢様はそれが嬉しかったんですよ」
「それがですか」
「言っておられましたよ」
今度は沙代子に関する話だった。
「告白されてとても嬉しいと。もう是非受けたいと」
「僕の告白がそんなに」
「しかもです」
話はさらに続く。
「一文字様はお嬢様のタイプだったんですよ」
「僕がですか」
「そうです。一番驚かれたようですね」
「否定できません」
その驚ききった声で答える。
「そうだったんですか、何か」
「これもまた意外だったようで」
「意外なことばかりなんですけれどね」
「ですから。お嬢様も人間なのですよ」
またこの言葉を出す執事であった。
「嬉しいとも思われますし好みだってありますし」
「それが僕だったと」
「おわかりになられましたね」
「はあ」
ここまで言われてやっとという感じだった。何とか落ち着いてきてそうなってきたのだ。
「何とかですけれど」
「ただ。一文字様の前では御見せしませんよ」
このことについても釘を刺してきたのだった。
「そこは御承知を」
「僕の前ではですか」
「女心は複雑なものでして」
人生経験を感じさせる言葉であった。
「好きな人の前では、というものらしいです」
「そうなの
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