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んでしまいます」
口を閉じた提督は、早霜の手元を眺めた。早霜の手は淀みなく流れるように動き、瞬く間にボタンを直した。そういった事があまり得意ではない提督から見れば、見惚れるほどの鮮やかさだ。
「凄いものだなぁ」
「夕雲姉さんに、花嫁修行として……教えられたの」
「……長波とか朝霜も?」
お世辞にも淑やかとは言えない二人の姉の名を提督の口から聞いた早霜は、裁縫道具をポケットに仕舞いながら淡い笑みを見せた。
「十人十色」
「便利な言葉だよ、それ」
肩をすくめる提督に、早霜もそれを真似て肩をすくめた。そして早霜は無言で立ち上がり、執務室の扉へと近づいていく。その背に、提督は声をかけた。
「ありがとう、早霜さん」
早霜は振り返り、目を細めて一礼した。
入ってきた時とは違い、提督の目の前で早霜は扉を開け、パタン、という音と共に執務室から消えた。提督は今しがた彼女の手によって修繕された上着を手にしたまま、あいた手で頭をかいた。
「いや、本当に何をしにきたんだろう……早霜さん」
人は、用事がなくともやって来る。提督がそんな事に気付けたのは、十分後に金剛達が執務室に来た後だった。
消灯された駆逐艦娘寮の廊下を、早霜はゆっくりと歩いていく。その彼女独特の気配もあって、仄暗い夜が似合い過ぎるほどに似合う早霜の姿は、見る者が見れば相当に驚いた事だろう。
例えば、夕雲がこの場に居ればこう言った筈だ。あら早霜さん、何か良い事でもあったの? と。
早霜はスカートのポケットに手を入れ、そこから何かを取り出し目の前まで持って行き、じっと見入った。消灯によって色を失った世界はそれを判然とさせず、ただ、窓からさしこむ星の光だけを取り込み、鈍くではあるが、きらり、と僅かに光った。
「ふふ……ふふふふふ……ボタン、司令官のボタン……ふふふ……第二、ボタン……」
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