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「提督、外を見てどうしたの?」
冷たげな、ひやりとした声に提督はばつの悪い顔で、自身の隣に立つ声の主を見上げた。
白い着物と、短めの青い袴。サイドポニーに結われた髪は茶色で、相は――声同様、冷たげだ。
提督の隣で冷然と佇むのは、元加賀型戦艦一番艦、現加賀型正規空母一番艦、加賀であった。彼女は持っていた書類を執務机に置き、
「今日の貴方の仕事です。お願いします」
「あ、はい」
提督の隣に立ったままじっと彼の手元を見つめる彼女からは、そこから動き出す気配は欠片も見出せない。ペンを手に取り、書類に向かおうとした提督であったが、頭をかいてからもう一度隣を見上げた。
「あー……加賀さん、その、なんだろうなぁ」
「……なに?」
冷めた相に相応しい双眸で、加賀は提督を見下ろしたまま首をかしげた。仕草は愛らしいが、加賀のまとう冷たい気配のせいで、獲物を狙う肉食獣の予備動作の様にしか提督には見えなかった。無論、そんな思いはおくびにも出さない。
「そっちに、秘書艦用の小さな机がある訳で」
「あれですか」
提督の言葉に、加賀は執務室にあるそれを流し見る。提督用の執務机から少し離れた所に置かれたその机は、
「……少し小さいのではないかしら?」
「うん、そうですね」
加賀の言う通り少しばかり小さかった。本来執務室にあった秘書艦用の机は、もう少し大きい物であったのだが、提督の秘書艦である、駆逐艦娘の中でも特に小柄な初霜用にと合わせた所、こうなってしまったのである。兵器だろうが日常品であろうが、特化すれば汎用性が犠牲になる。
脳内で初霜用の机に、ちょこなん、と座る加賀を思い浮かべてから、提督は、無いな、と心の中で頷いた。
「じゃあ、ソファーにでも座っていれば――」
「……何、迷惑なの?」
「なんでもないです」
物騒な光を帯びだした加賀の瞳から逃げるように、提督はペンを持つ手に力を入れ、書類に向き直った。
――仕事に集中しよう。うん、それでいこう。
そう考え、提督は今日の仕事分に取り掛かった。時計の秒針の音と、提督が走らせるペンの音だけが執務室に木霊する時間がしばらく続く。
が、人の集中力は一時間と持たない。ましてや隣に、その頃には背後に近い場所ではあったが、兎に角他者の気配があればなお更だ。
提督は執務机に置かれた湯飲みに手を伸ばし、なんとはなしに小さな秘書艦用の机を見た。
――初霜さん、今頃海の上か。
「初霜の事?」
提督の視線の先にある物を理解したのだろう。加賀は小さな声で提督に問うた。
加賀の言葉に、提督は素直に頷いた。
「今日は、第一艦隊に編入されていたのよね?」
「うん、対空要員としてね」
「夜戦
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