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鎮守府。
そう呼ばれる敷地内の、まだ朝霧が僅かに漂う一画に、軽快な足音が木霊する。白い裾の長いセーラー服をワンピースのように纏ったその足音の主は、目に飛び込んできた前を行く黒い後姿を見て、笑みをこぼした。
手を大きく振り、足を早め、急くようにその黒い後姿に近づき――
「はぁつしもー。おはよー!」
「っ!?」
ばしん、と、少しばかり勢いを乗せた手のひらで背を叩いた。驚いたのは叩かれた方だ。
彼女は首だけを動かし、背を叩いた少女へ涙を浮かべた瞳できつくにらみ付ける。……まぁ、にらみ付けているのだろうが、どうにも迫力がない。少しばかりの痛みで浮かべた小粒の涙も迫力を削ぐ小道具になっているのだろうが、どうやら彼女――初霜には迫力といった物が今一つ足りないのだろう。
「雪風さん、おはようございます」
「はい、おはようです!」
本当に今一つ二つ迫力が足りない。それでも、流石に言いたい事があるらしく、白い少女――雪風の二度目の朝の挨拶を聞いてから、初霜は迫力の足らぬ相で眉を吊り上げ、口を開いた。
あとしつこい様だが、本当に迫力がなかった。
「雪風さん、一日の始まりなんですから、そりゃあ親しく体をたたくのも、まぁあって良いとは思います。思いますけど、まずはその人を確りと見てからお願いします」
「あ、そうか。ごめんなさいです」
初霜の言葉に、何か思い当たる事でもあったのだろう。雪風はぺこりと頭を下げ、いまだ動かぬ初霜の両手を見た。
普段であれば、何かしらの叱責――と言えるほどの物では到底ないが――を落とす際、初霜は腰に手を当て、反対の手で指を一本立てつつ、正面から相手の目を見る。が、今朝はそれがない。
体を正面にむけるでもなく、ぴっと指を一本立てて叱るでもない。それも当然であった。
彼女の両手は、今塞がれていた。雪風は、初霜の両手を塞ぐそれを、ほー、っと口にしながら眺め、
「それが今日の司令の?」
「うん、そう。朝ごはんなの」
初霜は嬉しそうに、白い布に包まれた弁当箱を撫でた。
「今朝は、初春姉さんがどうしても炊き込みご飯を入れたいって言うから、少し早くて……」
「なるほどー、たきこみですかー」
ちなみに、弁当の調理中に必死に出汁巻きを入れようとする軽空母が居た訳だが、特にこの話とは関係ない。
眠そうな、しかしそれ以上に幸せそうなかつての相棒の顔に、雪風はなんとなく双眼鏡を弄りながら続ける。
「司令も、食堂に来れたら良かったんですけれどねー」
「……そうね」
同意しておいて、けれど、と初霜は返した。
「だから、こういう事が出来る、と思いたいの」
両の手にある弁当を僅かに持ち上げて、初霜は雪風の目を真っ直ぐ見つめた。
「一昨
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