壱章
魔王の子〜上〜
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『…………。』
長い深紫の髪を高く結い、どこを見るという訳ではなく水縹色の瞳は一点を見つめている。
一見、女子に見える少年は自室の隅の壁に寄りかかりながら腰掛け頬杖を付いていた。
少年の名は奇妙丸、織田家の嫡男である。
奇妙丸には【茶筅丸】【三七】という弟が居た。
普通兄弟ならば仲良く野を駆け回ったりして遊ぶだろう、だが奇妙丸は同じ腹から生まれた茶筅丸でさえ滅多に遊ぶことは愚か、馴れ合う事はなかった。
____外で遊ぶのがどうして楽しいかわからなかった、かといって身体が動かすのが嫌いという訳ではない。
寧ろ馬術や武術の稽古は大好きなくらいだ。
だが自分の自由な時間にまで遠乗りやら戦ごっこなんてやろうとは思わない。そんな事をするより偉人達の伝記を読んだり能や唄を楽しんだほうが有意義に過ごせる。
そんな風に考えていたし、そのほかの兄弟とはあまり気が合わないのだ。
特に三七はまるで親の敵を見るような(父親は同じだが)恨みがましい顔をする時がある。
それに自分自身、どうも彼奴を見ていると妙に悲しいような、気分を害するような……とにかく不愉快な気分になるのだ。
だからできるだけ彼奴の顔は見ないようにしていた。
三七の事を思い出し、あの禍々しい瞳で見つめられた時の事を思い出し奇妙丸は思わず眉間に皺を寄せ、気分転換をしようとし読みかけだった書物を取り出し再び読み始めようとした、その矢先だった。
ふと視線を動かすと何やら小さな影が足音と共に部屋の前を通り過ぎた……気がする。
廊下に出て見てみると五、六つぐらいだろうか?
自分よりずっと幼い女子がキョロキョロと周りを見渡していた。
じっと様子を見ていると此方の視線に気が付き振り返る。
_____真っ黒な髪に零れ落ちんばかりの大きな瞳、瞳はまさに【嘘のような菫の花の色】だった。
「きみ、だあれ?」
まるで仔猫が面白いものを見つけた様に『彼女』は笑い、こちらに話しかける。
________不愉快だ。
初対面の人物に対し、こんな感情を抱くのは失礼だが何故か今まで不快感と何か喉に突っかかる様な突っかかりを感じたことがない。
そもそも俺はこんな奴を知らな…いや、…………此奴を、この忌まわしき『鬼』をずっと前から知っていた。
「………俺、余…いや私は__________________。」
_____その答えに少女のような『少年』はにやりと邪悪な笑みを浮かべたのを、奇妙丸は果して気づいたのだろうか?
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