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八神家の養父切嗣
十三話:幸せとは
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あの時助けていれば……やっぱり彼らは死なずに済んだ」

 しかしながら、そんな気の迷いは彼にさらなる絶望を抱かせたに過ぎなかった。
 せめて誰か一人でも助けられないかと再び訪れたそこに彼らはいなかった。
 いや、居るには居たが、皆―――息絶えていた。
 町には火が放たれ、弱きものは蹂躙され尽していた。
 限られた財を、糧を、奪う為に敗残兵が数の暴力をもって襲っていたのだ。

 無論、切嗣はそのことに対して灼熱のような憤りを抱いた。
 弱者を襲う者達を今すぐにでも撃ち殺して止めてしまおうかとすら考えた。
 だが、ふと気づいた。気づいてしまった。
 どうして“敗”残兵がこうも大挙して押し寄せているのかの理由を。
 簡単だった。衛宮切嗣が一方的な形で戦争が終わるように仕向けたからだ。

「戦争が終わったって争いが無くなるわけじゃない……当の昔に知っていたはずなのにね」

 敗残兵が犯した罪ですら彼に押し付けるのは余りにも酷だろう。
 しかし、彼自身の心は打ちのめされた。見捨てただけだと思っていた。
 けれども、真実としては彼が正義だとかつて思っていた行為は弱者への止めでしかなかった。
 本当に救われるべき、本当に救いたかった者達を地獄へ追いやっていたのだと今更ながらに突き付けられたのだ。

「少数を犠牲にして多数を救う。……ははは、言葉にすればどこまでも正しい。でも、あの光景を、人が人を喰らうのを見てもそう言えるのか?」

 今の今までそうした光景を見続けてきたにもかかわらず気づかなかった己を嘲る切嗣。
 何のことはない。敗残兵達は切嗣と同じ行為をしただけに過ぎないのだ。
 100人の敗残兵が30人の弱者から全てを奪い生き残った。
 それがどんなに残酷で悪辣極まりない行為だとしても、それは正しい(・・・)ことだった。

 そんな正しい(・・・)ことをしている彼らをどうして衛宮切嗣が断罪できようか。
 否、出来などしない。その行いの先端を走る人間が責めたところで笑い話にもならない。
 かつて、衛宮切嗣は大飢饉に襲われた人々が、人間を殺して食べる光景を見たことがある。
 その時はその行いを軽蔑し、もう二度とそんなことをしなくともいいように世界を変えようとした。

 もしも、その時にその行いは彼自身が行っていることの縮小版に過ぎないと理解できればよかった。
 多くの人間を生かすために一人を喰らう犠牲の分別。
 全ての命を等価に量り、より犠牲の少ない選択をする。
 驚くほどに衛宮切嗣の人生と一致する思考と行動。
 要するに、彼が行ってきた行為は人が人を喰らう食人となんら変わりがなかった。

「ねえ、リインフォース。世界はどうして……こんなに残酷なのかな?」

 おぞましいほどの下種で外道
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