Chapter 4. 『堕ちてゆくのはぼくらか空か』
Episode 27. Rainy, Sunny
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の全てを以って、彼と共に歩み、戦い、尽くす。私の持ちうるありったけ、細胞一片に至る全部をそこにつぎ込んで。
であるからこそ、仮の墓石に向ける彼の優しい目を見たとき、私は嫉妬を覚えたのだ。彼を愛して護り育てたであろうこの人のように、私もなりたくて。その眼差しを、私に向けて欲しくて。
なんて重い女なんだろう、と自分でも思う。
想い人の母親にまで嫉妬するなんて、独占欲が強いとかいう次元じゃない。「恋煩い」を通り越して、「恋患い」に片脚突っ込んだ感じになってしまっている。
でも、一度自覚してしまうと、抑えることなんてできなかった。
魂を枯らしてでもいい、好きな人を隣で支えたい。余所からどう見られようと構わない。彼の助けになるのなら、一番傍に居られるのなら、何だってしたい。果てしなく高い壁が立ちはだかろうと、絶対に超えて見せる。
いつの間にか、雨脚は弱まっていた。上空に立ちこめる灰色の分厚い雲が薄くなり、切れ間から太陽が覗いて天気雨の様相を呈している。未だにぽつぽつと振る雨粒が陽光を乱反射して、湿った空気を貫くように燦然と輝いていた。
その明るさに背中を押され、私は閉じていた口を開く。
「――東伏見莉那。十月三十一日生まれの十八歳。向こうでの髪は黒、目は青。祖母がスウェーデン人のクォーター」
「…………は?」
「身長は百六十センチ強、体重四十八キロ。すりーさいずは、上から八十八、六十、八じゅ――」
「ま、待てまてマテ待て!! テメエはいきなり何言いだしてんだ!?」
いきなり話し出した私に驚き、少し赤面した一護が素早く私の声を遮った。
「……なにって、自己紹介」
「ンなことは分かってんだ! いやテメエの本名聞いたのは初めてだし自己紹介でスリーサイズをブッ込んでくるとは思わなかったけど……ってソコはいいんだよ!! なんで唐突に自己紹介ベラベラ言い出したんだよって意味で訊いてんだ!!」
「単なるけじめ。気にしないで」
「気にしないでって……あークソ! ホンットにオメーはマイペースな奴だな!!」
呆れ果てたような声を漏らす一護。マジでわけがわかんねえ、とばかりに眉根をひそめ、濡れた橙の短髪をガリガリと掻き回す。
確かに、傍から見てたらわけがわからないだろうけど、でも今だけは勘弁してほしい。ここが仮のお墓なら、親御さんへの挨拶だけは、やっておきたかったのだ。
私は石碑へと向き直る。
雨に濡れ、しかし雲間から覗く太陽に照らされて黒々と光る岩肌を見ながら、心の内で呼びかける。
――初めまして、一護のお母さん。
私は、一護のことが好きです。
その強さが、不器用さが、優しさが、
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