暁 〜小説投稿サイト〜
銀河日記
プロローグ
[1/3]

[1] 最後 [2]次話

〜〜古人もする日記というものを、現代の人たる私もしようと思って書くのだ。〜〜

これは地球に在りし、とある島国の王朝のある時代に書かれた書物の冒頭の改変である。この冒頭の元となった書物は、貴族であった著者が今までよりも自由な表現を求めたが故に独特な冒頭で始めたといわれている。そのような事はこの際、大した問題ではない。

さて、此処に一冊の本がある。小さいが、その分厚さと重さがあり、古い本。ページの角が曲がり、所々に手垢や滲んだペンの染みが付いているのが分かる。その他にも存在する、その本の全てが、著者の手で、紙面に筆先を走らせられてからの年月を物語っている。

この小さな本の冒頭が、先程書かれた文章である。

普通の本で有れば、“古い本”という単一で、ありふれた括りで書店の片隅か在庫の箱の中で終わっていただろう。だが、何かの運命か、それはその括りを離れ、史料として後の世に伝えられることとなった。

その理由は、紙面に筆が走った時代云々もそうだが、一番の問題はその主であった。

筆者の名をアルブレヒト・ヴェンツェル・フォン・デューラー。遠く忘れ去られた時代に生きた、ある男の日記であるからだ。



西暦(A.D.)二〇一三年。人類は、それまでに自分たちが築いた世界秩序を自らの手で完膚なきまでに打ち壊した。だが、それが最初でも、最後というわけではなかった。だが、それは大きすぎる損害だと人類は気付き、世界に点在していた主権国家から統一国家へと歩み始めた。

そして時は流れ、かつて母なる蒼き星の大地から仰ぎ手を伸ばした、漆黒の宇宙へとその生息範囲を広げた。

時の流れは山から海へとつながる川の流れのように止まらないが、人類の歩みは常に、幾度も俊足と牛歩を繰り返した。その間にいくつかの国家が生まれては死に絶え、隆盛を繰り返し、西暦2801年、人類は銀河連邦(USG)という国家を建設するに至り、その年から宇宙歴が始まった。

当時の人間を極度なまでの楽観主義者の集まりではなかったかと後世の人間が錯覚するほどの不退転の意思、情熱、陽気さをもって、困難を始めとする全てに立ち向かって行った。無論、全てが完璧で、全てが克服されたわけではなかったが。そして、それから時が流れるにつれ、走り疲れたのか、その歩みは再び遅くなり、停滞が始まった。それまでの人間の精神を支えてきた要素、積極、楽観、進取、技術面での新発見や発明。それらは全て、逆のものへと、望まぬ世代交代を強いられた。政治は腐敗し、衆愚政治へと、奈落の坂を転げ落ちた。頽廃が道を作り、人類は、その道をただなすがままに歩いているようであった。

いわば当時の人類は、頽廃という幾度も経験している筈の未知の病に冒された人体である。矛盾した言い方には理由がある。確たる治療法がないからだ。
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ