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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十六話 カイザーリング艦隊(その2)
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今回の件では面白く思ってはいないだろう。エーレンベルクも同様だ。補給基地にサイオキシン麻薬なんて頭から湯気を立てているに違いない。兵站統括部も同様だろう。軍内部での先行きは思いっきり暗かった。唯一の救いは憲兵隊に恩を売る事ができた事だった。

食事を終えジークリンデを出る。そのときだった。
「危ない!」
俺はいきなり地面に引きずり倒された。何があったのか判らずにいると、近くで怒号と悲鳴が聞こえる。なんだと思ってそちらを見ると数人の男に一人の男が地面に押し付けられ、腕をねじ上げられていた。悲鳴を上げたのはこの男だろう。

「一体何があったんだ」
「あの男に殺されかかったんだ。これを見ろ」
見るとジークリンデの出入り口にレーザー銃の痕がある。
「狙われたのはどっちだ」
「俺じゃない、卿だ」

俺を狙った? 誰が? 何で? 俺を殺して何のメリットがある?
「彼らは一体?」
「卿の護衛だ」
「護衛?」

そんなに危なかったのか俺は? しかしいつの間に護衛を?
「ケスラー中佐の命令でな。密かに護衛をつけていたんだ。俺やケスラー中佐が一緒にいるのもそれだ」
俺だけが何も知らなかったのか……。

俺とキスリングはその男に近づいた。取り押さえていた男が俺たちに敬礼する。
「有難う。おかげで助かった」
「いえ、ご無事で何よりでした」
「顔に見覚えは?」
「いや、無いね」

「何故、私を殺そうとするんだ」
男は俺を憎々しげに見る。
「答えなさい。何故、私を殺そうとするんだ」
「さあ、答えろ」
取り押さえていた男が腕をさらに捻る。

「よせ、止めろ、……話す。……参謀長に頼まれた。」
「参謀長? 頼まれた?」
俺とキスリングは顔を見合わせた。

「ふざけるな。私を殺して何の意味がある。反って憲兵隊の調査が入るぞ。もう少しまともに答えろ」
「本当だ。お前は、闇の左手だろう。だからだ」
意外な答えに俺とキスリングは呆然として顔を見合わせた。
 
 この世界には、「闇の左手」、正確には「皇帝の闇の左手」と言われる人間たちがいるらしい。”らしい”というのはその存在がはっきりとしないからだ。銀河帝国のあらゆる政府機関の何処にも「皇帝の闇の左手」は存在しない。銀河帝国の歴史の何処にも出てくることは無い。銀英伝の原作にも出てこないのだから”無い”と言いたいのだがどうもはっきりしない。

 「皇帝の闇の左手」だが、噂によると「皇帝直属の情報機関」ということになる。皇帝の命だけに従う組織だ。銀河帝国には幾つかの情報機関、捜査機関がある。憲兵隊、情報部、社会秩序維持局等だ。このうち憲兵隊は軍務尚書、情報部は統帥本部長、社会秩序維持局は内務尚書の支配下にある。かれらは皇帝よりも直属の上司に忠誠を誓いがちだ。つまりそれ
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