19.プロローグがはじまる
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そう言った。恐らくは、『おれのことは忘れて、好きなように生きろ』と言いたかったのだろう。それならそうとストレートに言ってくれればよかったのに。おばあちゃんになるまで生きたあとに続きをしようなどと、なんとも彼らしい、締まらない言い方だ。
ただ、私は約束を破るつもりはない。彼が私のことを永遠に愛するというのなら、私も彼を永遠に愛そう。『続きはおばあちゃんになってから』というのなら、おばあちゃんになってから会いに行ってやろう。そして、『約束を守った私を約束通り愛して』とわがままを言って困らせてやる。
その時に胸を張って会えるよう、私は先に進むことにした。少なくとも、今後の人生を楽しまないことには、胸を張って彼と会うことは出来ない。
私は、自身の左手を見た。左手には、彼からもらったケッコン指輪が未だ光り輝いている。昨日までの私は、彼のことを忘れられない悲しさから、この指輪をつけていた。彼の残滓を身につけ、少しでも彼の存在を感じたかったのだ。
だが今は違う。これは、永遠の愛の証だ。彼は私を永遠に愛すると言った。ならば私は永遠に彼のものだ。私は彼のものであるということを私自身が証明するために、私は今この指輪をつけている。
同様に、私もまた彼を永遠に愛する。私には、永遠に愛する男性がいるのだ。その決意を示すための指輪でもある。
鈴谷が美味しそうに食べているお漬物を見た。あんな素敵なおばあちゃんになって、彼に会いに行こう。そして彼が望んだことなのだから、思いっきりじらしてやる。あっちで『金剛…早く来てくれ……会えなくて悲しい』と散々思わせてから会おう。自分が言ったのだ。それぐらいはいいだろう。
バスは私達を乗せて進んでいく。私はやっと自分の、人間としての人生のプロローグが動き出したことを感じた。
「お姉様?」
「ハイ。どうしまシタ?」
「…いえ。昨日と違って、何か吹っ切れたように見えたものですから」
霧島が微笑みながら私を見た。さすが私の妹だ。私の変化に敏感に気付いている。
「帰ってからやることを考えてマシタ。まずは、青葉にテートクの故郷の話をシマース」
「青葉にですか? 青葉に会われたのですか?」
「いえーす! 青葉にはこの旅のプランを立ててもらったネ! そして、テートクの生まれ故郷の話をすると約束しまシタ!」
「そうだったんですね。ではお姉様、その時はこの霧島も、お伴させていただきます!」
「おーけー! 帰ったら一緒に青葉に会いに行くネ!」
「はいはーい! 鈴谷も行く!! このお漬物食べてもらう!!」
鈴谷が口の中をおばあちゃんの漬物でいっぱいにしながら、右手を勢い良く上げて、そう答えた。青葉への報告は賑やかなことになりそうだ。そして、恐らく今も苦しんでいるであろう青葉を、
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