Side Story
無限不調和なカンタータ
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舐められてるのかしら?
私、れっきとした本物の悪魔なんだけど……。
ズゾゾ……と、真っ黒な闇の中を不気味に蠢く『何か』がある。
その動きは、岩の隙間を這う蛇のようであり。
螺旋を描いてうねる水流のようでもあった。
ズゾゾ……ズゾゾ……と重音を纏った『何か』は、不意に止まり。
首をゆっくり持ち上げる。
厚い岩盤で覆われた頭上は、色も判別できない岩肌が露出しているだけ。
『何か』がいつも見ている景色に変化はない。
しかし。
「……音が、変わった……」
どこかから聴こえてくる美しく澄み渡った不快な歌声に森全体が共鳴し、歓喜の旋律を奏で始めている。
空気が、生命が、浄化されていく。
「気持ち悪い……。お前の仕業か……?」
最近森に居付いたらしい、『音』を特性に持つ美しい女悪魔は。
腰下の辺りまで伸ばした月色の髪を風に揺らすだけでも、しゃらしゃらと軽やかで涼やかな音を立てる。
艶やかな桃色の虹彩を爛々と輝かせて言葉を放てば。
応えたすべてが陽気な音楽を形成する。
『何か』にとっては、それが酷く不愉快だった。
だが……よく聴けば、これは、あの女悪魔の声とは違う。
別の何かが増えた。
別の何かの美しい歌声が、森全体を変化させようとしている。
やわやわと全身を撫でる美しい音の気持ち悪さが。
闇を愛する『何か』を、異常に苛立たせた。
「……不快……不愉快……。清浄は無に……。清浄は無に……」
顔を正面に戻した『何か』は、久しく離れていた場所を目指し。
再び、ズゾゾ……ズゾゾ……と、闇の中を前進する。
地中に暮らす小さな生命達を押し潰し、すり潰し。
残骸を灰に変えることもなく。
ただただ、まっすぐ前へと突き進む。
地鳴りを連想させる鈍い声を、雑音のように撒き散らしながら。
「消えてしまえ……美しい音など……」
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