Side Story
無限不調和なカンタータ
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ふざけんじゃないわよ、この無自覚男!
どの世界にも無かった快音を響かせておいて、なんなの、この自信の無さは!
ありえないありえないありえない! 感性と実力の均衡が全然釣り合ってない!
宝の持ち腐れにも程がある!
「あんた、暫く此処に居なさい! その歪みまくった自意識、私が真っ直ぐに矯正してやる!」
右手の人差し指を男の胸に立てて宣言すれば、男は爪の先をじっと見て……
「君と一緒に、此処で暮らすの?」
「そうよ。不満だろうと怖かろうと知ったこっちゃないわ。私がそうしろって言ったんだから、そうしなさい!」
「分かった」
ずっこけたのは、あっさり頷かれた私のほうだ。
男はのほほんとした表情で自分の頭を掻きつつ辺りを見回し、どうやって寝ようとか、食事はどうしようとか、ついさっき殺されかけた事など歯牙にも掛けず、本格的に検討を始める。
……そりゃ、殺すのは止めたって言ったわよ? そのつもりもすっかり削がれたし。
でも、現実逃避中にしたって、幾らなんでもこの順応性は……舐められてるのかしら?
私、歴とした悪魔なんだけど……。
ズゾゾ……と、真っ黒な闇の中を不気味に蠢く「何か」が在る。
その動きは岩の隙間を這う蛇のようであり、螺旋を描いてうねる水のようでもあった。
ズゾゾ……ズゾゾ……と重音を纏った「何か」は不意に止まり、首をゆっくり持ち上げた。
厚い岩盤で覆われた頭上は、色も判別不可能な岩肌を露出しているだけ。「何か」が常時見る景色に変化は無い。
が。
「……音が……変わった……」
何処かから聴こえてくる美しく澄み渡った不快な歌声に森全体が共鳴し、歓喜の旋律を奏で始めている。空気が浄化されていく。
「気持ち悪い……。お前の仕業か……?」
最近森に居付いた音特性の美しい女悪魔は、腰辺りまで緩やかに伸ばした月色の髪を風に揺らすだけでもしゃらしゃらと涼やかな音を立てる。艶やかな桃色の虹彩を爛々と輝かせて言葉を放てば、応えた総てが陽気な音楽を形成する。
「何か」にとっては、それが不愉快だった。
だが……よく聴けば、これはあの女悪魔の声とは違う。別の何かが増えた。別の美しい何かが森を変化させようとしている。
やわやわと全身を撫でる音の気持ち悪さが、闇を愛する「何か」を異常に苛立たせた。
「……不快……不愉快……。清浄は無に……。清浄は無に……」
顔を正面に戻した「何か」は、久しく離れていた場所を目指して再びズゾゾ……ズゾゾ……と、闇の中を進む。
地中に暮らす小さな生命達を押し潰し、擂り潰し、残骸を灰に変える事もなく。
ただただ真っ直ぐに進む。
地鳴りを連想させる鈍い声を撒き散らしながら。
「消えてしまえ……美しい音など……」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ