Side Story
無限不調和なカンタータ
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力もきっちり活用してもらえるでしょうよ」
たまにいるのよね。
こういう、無気力の塊みたいな人間。
哀愁背負って『自分、もう無理なんです……ふふ……』とか。
バッッカじゃないの?
羽虫が耳元で飛んでるのと同じくらい、目障りで耳障りだわ。
こういうのとは一生、一切関わりたくない。
「あ、別に死にたいわけじゃないよ。それならそれでも良いかってだけで」
「つまり、死にたがりでしょうが」
「いや。これはただの現実逃避」
「自覚してんのかよ!?」
「うん」
いや、うんって。本当になんなの、こいつ。
私のほうが調子を狂わされてる。
嫌だわ。放っておくんだった。
「実は僕、楽師になりたくて上京したんだけど、その道では有名な奏者達に『逆天才と讚美するに値する清々しいまでの不器用さ故に、努力の掴み所を見つけようがなく、可哀想だが絶対不可』と真顔で同情されちゃう始末で。村の人達の反対を押し切って出てきた手前、今更手ぶらで帰るのもどうかと思うから……現在、こうして途方に暮れてる最中なんだ」
「どんだけ不器用なのか、逆に気になるわ! てか、よくそんな腕と呼べるモノ一つ持たない状態で飛び出してこれたわね!?」
「仕方ないよ。楽器なんて、上京するまで一度も触ってなかったし」
意 味 が 解 ら ん ! !
「楽器を。一度も。触ったことすらないのに? 何故、楽師!?」
「村が、すごく寂しかったから」
上半身を起こして、よれた服を整えた男は。
再度目元に自嘲を浮かべて、胡座の姿勢を取った。
「僕が生まれた村は子供でいられる時間がとても短い。でも娯楽の代わりや気休めになりそうな物が全然見当らなくて。朝も昼も夜も働いてばかりで、皆どこか辛そうなのに解消する術が無かった。だから、僕が楽師になれば、少しは村の雰囲気を明るくできるかもって思ったんだ」
「で、その結果が『おとといきやがれ』なワケね」
「厳格で知られる巨匠達に土下座されつつ泣きながら謝られてしまったら、さすがに引き下がるしかないかと」
人間世界の文化には、あんまり興味ない。
でも、こいつが知的生命体として絶望の極致に居ることだけは判った。
ある意味すっごいわぁー。
無いわぁー。
「歌は褒められても、演奏ができなければ楽師にはなれない。残念だよ」
「…………『歌』?」
「ん。それなりに歌えたから巨匠達も一度は私を弟子にしてくださったし、楽師を選んだのも、歌があればこそでね」
歌、ねえ?
「何でも良いわ。ちょっと歌ってみなさい」
「は? えと……、うん。わかった」
きょとんと瞬いた男が、私の無言の眼光を受けてあわあわと立ち上がる。
姿勢を整え、腹に手を
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