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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十五話 カイザーリング艦隊(その1)
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カイザーリングの声は震えを帯びている。
「娘を失った母親は心の張りを失ったのでしょう。それまで続けていた仕事を辞め、手っ取り早く金を稼ぐようになった。そして彼女の客の中にサイオキシン麻薬の常習者がいました。彼女はその客からサイオキシン麻薬を与えられ、そして今はサイオキシン麻薬治療センターにいます。重症患者として。幸せな家族は5年経たずに崩壊しました」

カイザーリングは蒼白になっている。周囲も沈黙したままだ。
「閣下。閣下がバーゼル少将を、仲間を守りたいと思う気持ちはよく判ります。しかし、バーゼル少将を守ると言う事はこれからも不幸な家族を世の中に生み出し続けるという事です。それでもバーゼル少将を取り返したいと仰いますか」

ヨハンナ・フォン・バーゼルを守るために、これからも犠牲者を出し続けるのか?
犠牲者を生み出したのがクリストファー・フォン・バーゼルなら、それを止めようとしないお前は何なのだ、カイザーリング?
お前も所詮は他者の痛み、苦しみを理解しない貴族の一人なのか?

「……いや、釈放は望まない……望めない、それは許される事ではない……」
搾り出すような小さな声だった。だが聞き逃した人間は誰もいないだろう。
「卿はなぜこの写真を?」
「この艦隊で不正が行われている、サイオキシン麻薬の密売が行われていると最初に気付いたのが小官です」

「卿が?」
「はい。そして憲兵隊に相談し、今回の逮捕に至りました。その写真はこの地のサイオキシン麻薬の被害がどのようなものか自分で確かめる必要があると考えたからです。サイオキシン麻薬は有ってはならないものだと考えています」

 俺は単純にもクリストファー・フォン・バーゼル少将が逮捕された事で全ては終わったと考えていた。後は補給基地のサイオキシン工場を潰し関係者の処分をして終わりだと。全てを見通せる人間がいたら俺の馬鹿さ加減にあきれていたろう。後に考えて見れば、この事件は第一幕が終了しただけだった。第二幕はまだ欠片もその姿を見せていなかった。



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