第3章 黄昏のノクターン 2022/12
30話 無音の追跡者
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々と木箱をゴンドラに積載し、十、十五と数を増した積荷の山は終いには二十七というとてつもない積載量に達する。それだけの木箱を積んでいるのにも関わらず、ゴンドラの喫水線は大きく変化しているようには見受けられないところを察するに、貨物の重量は軽いことを意味する。つまり、空箱ということか。
やがて積荷を綱で固定し、荷に布を被せた男は、ゴンドラの櫂を握るとゆっくり離岸してすぐに細い水路に進入していく。屋根を拝借していた倉庫の屋根付近に記されていた《27》の数字を記憶しつつ、身を起こしてゴンドラを追跡。
水路同士の幅が狭いとはいえ位置取りを間違えれば対岸への移動で手間取られる。これまでのように自由に移動していた頃とは異なり、対象を追うことへの難しさを痛感しながら屋根を駆け抜ける。
そんな追跡劇がおよそ四十分も続いたころ、恐れていた事態が訪れてしまう。
「なッ、そっちか!?」
思わず毒づく。細い水路が交差する十字路にて、これまでは左右に船体を寄せる位置で曲がる方向を予測できていた――――船体の長さ故か、一旦曲がる方向とは逆の向きに進路を傾ける――――のだが、今回は完全にフェイントに掛けられ、大きく傾いたゴンドラは減速することなく右に舳先を曲げてゆく。
水面を切り裂きながら徐々に弧を描く船尾目掛けて、俺は全力で屋根を疾走して屋根を飛び出していた。縁を蹴り飛ばし、ほぼ直線的な軌道で水面に接近。水中に飛び込む音も《無音動作》の仕様によって波だけが生じるのみ。
空中から水中へ、落下から浮上へと目まぐるしく変化する状況にさえも、軽業スキルは姿勢制御の面で俺をサポートしてくれる。飛び込みの勢いが殺しきれないまま、緩やかな弧を描いて水面へと向かう身体の進路を調整しつつ、水面から飛び出して見える《船底》を目指す。《水泳》スキルを持たないながらも辛うじて船尾から延びる錨鎖を掴み、息継ぎの為に水面に顔を出す。本来ならば髪や肌にまとわりつくような水さえも、《オハブ・レイ》の水濡れ無効効果によってその全てが水面と共に離れてゆく。というより、さっきからビニール越しに水を触っているような感覚がしてならない。しかも結構ゴワゴワした厚手のビニールの感触だ。これには違和感を訴えるしかないが、今はとりあえず目下の問題についてのみ考えることとしよう。ついにゴンドラが桟橋に停泊したのだから。
「………ここは、あの作業場か?」
そして、この場所こそ、ロービアに来た俺に不可解な光景を見せつけてくれた《空の木箱を造っていた作業場》である。
ともあれ、いつまでも水に漬かっているわけにもいかないので、錨鎖から手を離し、船から離れて街路に上陸する。水濡れ無効効果によって水は一滴も残らず、且つ途切れることなく、一つの塊が剥がれ落ちるような形で全身
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