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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 黄昏のノクターン  2022/12
30話 無音の追跡者
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 それはもう清々しいくらいの暴論を放ってくるレイを窘める。


「コルネリオの言うところの《波風》がどの程度なのかを判断することは出来ないが、順当に考えて、敢えて距離を置きながら警戒する相手が敷居を跨いで上がり込んだら、それこそ大荒れだぞ」
「………でも、このまま何も進まないままよりはマシじゃない?」
「アウトだよ」


 尚も懲りずに強硬姿勢を貫こうとするレイに呆れつつ、水路を見遣る。一応は薄暗い隘路にひっそりと停泊させたことで傍には自分たちのゴンドラはないのだが、それ故に往来する船の姿がぽっかりと途絶えた光景はどこか静寂に包まれた趣があれど、しかし今は如何ともしがたい焦燥感を伴う厄介な絵図に他ならない。
 人が頭を抱えて悩む隣ではリゼルが勝手に朝食をオーダーしていたり、誘惑に屈してレイがNPCウエイトレスを呼び止めてメニューから適当に注文していたり、それにヒヨリとクーネが便乗したり、もう話し合いの場としては機能すまい。諦めてコップに注がれた水を一息に飲み下して、相も変わらない景色を諦観しつつ眺める。


「………あ、あの………」
「どうした?」


 ふと、ニオから消え入りそうな声を掛けられ、危うく聞き逃しそうになりながらも反応する。今思えば、向こうから能動的に呼びかけてきたのは、恐らくこれが初めてか。それまではリゼルを中間に挟むような位置に構えられて距離を置かれていたようにも思えたので、こちらから無理に話をすることもなかったのだが、向こうから接触してくるのならば俺としても幾分か楽に接することが出来るだろう。


「その、的外れな意見だったら申し訳ないんですけど………クエストについて、思うところがありまして………」
「何か思いついたのか?」


 年上の保護者どもとは違って、歳の割に成熟した精神を持つニオに感心しつつ、一先ずは意見を聞いてみることにする。レイみたいな突拍子もないような内容でなければ、可能な限り聞き入れてあげたいところだ。


「い、いえ………そんな大それた事ではなくて………えっと、別に水路から探さなくてもいいんじゃないかな、って、思って………」
「ほう、ではどうする?」
「屋根の上とか、水路から見て死角が大きくなるような高所からなら、もしかしたら水運ギルドに警戒されずに観察できるんじゃないかな………って、思ったんですけど………ダメですよね?」
「いや、駄目じゃない。というより、それしか無いだろうな」


 先細りに音量が(すぼ)まる意見は、しかしなかなかに隙がない。ニオの策はこの現状を打開するに足る説得力を秘めていると俺は考える。警戒されているならば、姿を見せなければいい。朝日も眩しいこの白亜の水都での隠蔽(ハイディング)は困難なれど、屋根の上ならば完全
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