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八神家の養父切嗣
十一話:心
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んな嘘など通用するはずもない。

「それこそ嘘だろう。あれだけの涙を流せた絆が偽物のはずがない。何よりも主はお前の愛で目を覚ましたのだ。それは揺るぎのない事実だ。これでもまだ嘘だと言うのか?」

 ゆっくりと近づいてくる彼女に切嗣は血が出る程に唇を噛む。
 家族を愛していた。それは彼女も、彼自身も分かっている事実だ。
 だが、認めるのが怖かった。認めてしまえば以前の機械に戻れない。
 全てが無駄だと分かった以上は以前よりも心を殺さなければ為すべきことを為せない。

 もう、自分を騙す大義名分など存在しないのだ。
 それでも、犠牲にしてきた者を価値あるものにするために止まれない。
 故に今この瞬間も孤独にならなければならない。誰かに親愛を抱くわけにはいかない。
 抱いてしまえば、また苦しみの果てに殺さなければならない。もう、耐えられない。
 それほどまでに衛宮切嗣は弱くなってしまっていた。

「……仮に嘘でないとしても、それがどうしたと言うんだ。初めから僕にははやての家族になる資格などなかった」
「家族になるのに資格がいるのか? 資格などなくとも家族は家族だ」
「これは僕自身の問題だ。例え、この世全ての人間が僕を許したのだとしても僕だけはそれを許せない!」

 声を荒げて、何かを振り払うように手を振る切嗣。
 その姿はまるで、自身に触れようとする全ての者に怯えているように見えた。
 彼はそのまま辺り一面に広がる死体の山を無造作に指さす。

「見てごらん。これが僕が今までの人生で行ってきたことの積み重ねの結果だ。ただの殺人鬼なんか目じゃない程の死体を築き上げてきた。死肉を漁る疫病神だ。こんな人間が優しいはやての傍に五年もいたなんておぞましくて身の毛がよだつよ」

 どこまでも自嘲と憎しみを込めたセリフにリインフォースは返す言葉がなかった。
 人には皆、自分自身を愛する自己愛が存在する。
 もしも存在しないものがいるのならばそれはロボットだろう。
 かつての衛宮切嗣ですら自分自身を愛する心が残っていた。
 しかし、今の彼は愛が憎しみへと豹変してしまっている。

 自分自身を終わらせるために破滅の道へと突き進み続けている。
 だというのに、犠牲にしてきた者達の為に生き続けなければならない。
 破滅してしまいたいという願いを生きなければならないという義務だけで抑えている。
 いつの日か、この身が破滅できるその日だけを夢見て望まぬ行い(殺し)をし続ける。
 それは、おおよそ人間が、否、生物がするべき生き方ではないだろう。

「彼らを本当の意味で救える奇跡だって起こすことができたんだ。でも、僕はそれを選ばずに殺す道を選んだ。妥協した…諦めた…ッ! 自分可愛さに救われるべき人達を見殺しにしているッ!
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