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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十四話 ウルリッヒ・ケスラー
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「カイザーリング艦隊の寄港地における或る犯罪者の検挙数だ。寄港直後に数が増加している」
「ある犯罪者の検挙数? 何だそれは?」
「薬物違反。サイオキシン麻薬だ」
「!!!」

 俺たちの間を沈黙が支配した。キスリングは補給のグラフ図、犯罪者の検挙数を記した資料を見比べている。
「カイザーリング艦隊が物資の横流しを行い、サイオキシン麻薬の密売にかかわっているというんだな」
「そうだ。物資の横流しはサイオキシン麻薬の購入資金を得るためだろう」
「とんでもない物を持ってきたな」

 ここ十年ほどだが軍隊内、及び辺境領域においてサイオキシン麻薬は暴威を振るっている。カイザーリング艦隊は軍隊であり、その活動範囲は辺境領域だ。どちらも合致する。
「俺の手には余るな、これは」
「そうか……見て見ぬ振りか」

「ふざけるな、言って良い事と悪い事が有るぞ。俺の手には余ると言っただけだ、判断できる人に相談すれば良い」
「信用できるのかな、その人は」
「信用できるよ、ケスラー中佐なら」

「ケスラー中佐? 卿の言っているのはウルリッヒ・ケスラー中佐か?」
「知っているのか、ケスラー中佐を」
「いや、聞いたことがあるだけだ。信頼できる人だとね」
 俺はちょっと慌てたが、キスリングは気付かなかったようだ。ケスラーを呼んでくる、と言って部屋を出て行った。ウルリッヒ・ケスラーか……。まさかここで出会うとは思わなかったな。俺は少しの不安とかなりの期待を持ってウルリッヒ・ケスラーを待った。

 結果としてキスリングの判断は間違っていなかったし、俺の期待も裏切られる事は無かった。ケスラーはカイザーリング艦隊への疑惑を聞くとその場から行動を開始した。周囲への協力要請、上司への説得等を瞬く間に片付けたらしい。彼自身に対する信頼の厚さへの裏返しだろう、反対する人間はほとんどいなかったとキスリングが教えてくれた。

 一切の準備を終え、俺たちが惑星リューゲンへ向かったのは一週間後だった。ケスラーを捜査責任者として30名程の人員が私服姿で目立たぬように発った。もちろんキスリングも同行している。俺は引継ぎを終了させ何事も無いように惑星リューゲンへ向かった。ケスラーから捜査協力を要請されていたが、その事はディーケン少将にもハウプト中将にも話してはいない。下手に話すと妙なところから制止命令が出かねなかったからだ。

 オーディンから惑星リューゲンへは通常10日程かかる。カイザーリング艦隊が惑星リューゲンへ来るのは俺達が到着した一月後だろう。その間にカイザーリング艦隊のこれまでの行動を調査し、クリストファー・フォン・バーゼル少将がサイオキシン麻薬の密売にかかわっているという事実を現地捜査から裏付けなければならない。事態は好転してはいたが、前途の楽観は全く出
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