第6章 流されて異界
第133話 アンドバリの指輪
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たはず。それに、有希は痩せても枯れても情報を集める事によって進化の極みに達した、……と自称していた情報生命体が産み出した人工生命体。もしかすると、赤血球の能力を増大させて、一時的に酸素を運ぶ能力をアップさせ、有酸素運動を更に効率良くさせる方法を持って居る可能性もありますから……。
一応、俺も生命体の一種ですから、酸素を身体中に送る事によって身体を動かしたり、思考したりしています。この酸素を送る能力が上がれば、当然、生命体として持って居る基礎的なポテンシャルが上昇し、引いては術者としての能力が上がる……とは思うのですが。
俺の問い掛けに一拍の間を置く有希。少し意表を突かれたかのような視線で俺を見つめている事から考えると、これは多分、俺の想像が間違っていた、と言う事だと思う。
しかし――
「血栓が発生し易くなるリスクを伴うが、あなたの血液は基本的にコレステロール値の低い血液。一時的に血液の増量を計るのなら、方法はある」
方法は有るんかい! ……と言うツッコミ待ちのような表情で言葉を続ける有希。
ただ、それならば……。
「それなら、最初の質問に帰るけど、オマエさんは一体、何をしようとしているんや?」
行き成り顔を近づけて来る必要がある行為――
それって、どう考えても――
「問題ない」
あなたは動かないで居て欲しい。
動かないで居てくれ、と言われても……。
少し身体を折り曲げ、彼女が顔を近付け易い体勢を取る俺。ただ、現状の雰囲気としてはあまり良いムードとは言えない。確かに事務的とまでは言わないけど、今までのやり取りは何処からどう聞いても恋人同士の語らいではない。故に、このタイミングで口付けを交わすとは思えないので……。
身体を折り曲げた事により、更に近くなった彼女の顔。その整った顔立ちと、普段よりもずっと近いその距離に、流石に少し視線を逸らす俺。
そんな事はお構いなしに接近する彼女の――
そして!
触れる事なく通り過ぎる彼女のくちびる。
代わりにしっかりと触れ合う頬。意外に温かい、そして当然のように柔らかい感触。俺に妙な安心感をもたらせる落ち着いた彼女の気配と香り。
僅かな時間、そうして居た後に一度離れ、再び見つめ合える距離に別れるふたり。
事、ここに至って、ようやく、有希の意図を理解出来た俺。これは親愛の情を表現する挨拶。くちびるを交わすのではなく、頬と頬を触れ合せる行為。
反対側の頬が触れた瞬間、ハルヒによって消費させられて終った物理反射の仙術が再び補充された事を感じる。
そうして……。
「わたしの所へ、必ず無事に帰って来て欲しい」
……と、耳元で小さく告げられたのでした。
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