第6章 流されて異界
第133話 アンドバリの指輪
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の七月七日の夜までは、無意識の内にハルヒが発生させた色々な怪現象で水晶宮は兎も角、天の中津宮の方は事件処理に忙殺されていたはず。
最低でも俺の飛霊を護衛に付けて置けば、あの程度の犬神使いなどに彼女が攫われる事はなく、昨夜の段階で事件は解決していたはずなのですが……。
「その指輪は彼女の宝であると同時に、俺に取っても大切な宝」
広げられた彼女の手を包み込むように……つまり、指輪ごと彼女の手を握り、瞳を見つめながらそう言う俺。
太平洋岸とは言え、クリスマス直前の東北の夜。俺たちだけの為に全館を暖房する必要はない、と断った為、この廊下の温度は外気温と大きく違わない。
吐き出す息は少し白く凍り、空気の冷たさが肌を刺すかのような夜。
両手で冷たくなった彼女の手を完全に包み込む。俺の手の温かさが伝えられるように。
有希が感じている心の冷たさが誤解である事を。この指輪の持ち主は、未来の長門有希本人である可能性が高いと言う事を彼女に伝える為に。
言葉ではなく、それ以外の何かで感じて貰えるように……。
「それを有希に預ける意味をもう一度良く考えてから、答えを返して欲しい」
俺はその指輪を返して貰う為、必ず有希の元へと帰って来る。その事だけは約束出来る。
先ほど、ハルヒに対しては言えなかった一言。その言葉の中に含まれていた弱気に対して怒ったハルヒが、後ろから枕を投げつけて来た。
いや、多分、彼女らしい喝を入れた心算だったのでしょう。但し、その所為で俺が結構、小細工が得意な術者だと理解出来たのですが。
彼奴は彼奴なりに、俺の事を心配していた。そう言う事。
「指輪を預かる代わりに……」
一瞬、緩んだ気。瞳は彼女の瞳を覗き込んでいながら、心の方は先ほどのハルヒとの別れのシーンのプレイバック。
その一瞬の隙を突くかのような有希の言葉。
「戻って来た後に、わたしの願いをひとつ聞いて欲しい」
静かな夜に浸み込むかのような彼女の声。その小さな、そして特徴的な抑揚の少ない声も普段通りの彼女。
成るほど――
「俺に出来る事ならばな」
握ったままであった両手を解放しながら、軽く一度瞳を閉じた後に答えを返す俺。この一拍の間は当然、彼女の様子の確認と、その願いの内容を予測する為の物。
彼女からの願い……。今の俺に対してはおそらく初めて。二月にこの世界を訪れた俺の異世界同位体に対しては、自分の名前を呼んで欲しいとか、最後の戦いに連れて行って欲しいなどの要求は行ったはず。
しかし、今の俺に対して明確な言葉にしての要求と言うのは初めて。
直接言葉にして、自らの名前を呼んで欲しいとも、彼女は伝えて来ませんでした。
今宵の彼女は矢張り、少し様子
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