第6章 流されて異界
第133話 アンドバリの指輪
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。
上目使いに俺を見つめ、そして視線のみで僅かに首肯く有希。このような時には何時もの通りの反応。
ただ……。
ただ、確かに、普段でも事、俺が絡む時には少し失調気味になる事がある有希なのですが、今宵の彼女は何時にも増して少し雰囲気が妙だとも思える。
その理由は――
「……柿本人麻呂か」
独り言のように呟いた後に、心の中で小さくひとつため息。尚、これの正しい返歌は『われは留らむ 妹し留めば』……つまり、オマエが留めてくれるのならば俺はここに残るよ、と言う意味になる。
ただ、故に、
「悪い、有希。その返歌を口にする事は出来ない」
確かに、俺が向こうの世界に帰らなくても誰も文句は言わないでしょう。
タバサも、湖の乙女も、その他の連中も。
あの白猫の姿をした白虎でさえ、俺が関わり続ける義務はない、と言う意味の内容を口にしました。
しかし――
「向こうの世界に残して来たのも、大切な家族なんや」
今は私だけを見て欲しい、……と言った少女から視線を外し、何処か遠い彼方に視線を向ける俺。
まるでその方向に彼女らが居るかのように。
「向こうの連中はアレが永遠の別れとならない事を望みながら――」
戻って来ない事を心の何処かで祈っている。
彼女ら……転生者である彼女らの強い願いは、前世の轍を踏まない事。その目的を果たす為に、いばら道と成る事が分かっていながら今の人生に転生を行った。
彼女らの目的、それはおそらく前世で早々に退場して仕舞った俺を生き残らせる事。
そして、世界の危機が迫っているハルケギニアに比べると、この有希が暮らして来た地球世界が安全だと言う事は……おそらく湖の乙女と妖精女王は知っている。
いや、湖の乙女は俺がこの世界に流されて来ている事を間違いなく知っている。
そうでなければ、あのような台詞は口に出来ない。
曰く、自分の事を嫌いにならないで欲しい、などと言う事を――
「帰って、最低でも一言。ただいまと言わなくちゃならない」
それで彼女らが喜ぶか、それとも哀しむのかは分からない。でも、帰らなければ、俺が俺で無くなって仕舞うから。
帰らなくても、帰っても結果、後悔するのなら、俺は帰って、全力で事に当たってから後悔したい。
また一歩届かなかったのか、と……。
すべての会話が終わり、その場に最初と同じ静寂が降りて来る。
相変わらず有希の頭に手を置いた状態で、彼女の瞳を見つめ続ける俺。
彼女は……俺が帰りたい理由を理解はしてくれたと思う。……だとは思うが、納得して貰えたのかは微妙。
それまでと同じように、少し潤んだ瞳で俺を見つめる彼女が発するのは哀。愛ではなく、哀だ
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