第6章 流されて異界
第133話 アンドバリの指輪
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いる『トロイラスとクレシダ』の台詞をすっと登場させられる事に、笑い……までは行かなくても、表情を少しは変えて欲しかったのですが……。
彼女もハルヒと同じで、自分を過小評価し過ぎている。その事に気付いて欲しい――
ほんの僅かでも場の空気を変えたい、と願い、ない知恵を絞って発した軽いギャグ。有希ならばその意図と、言葉の意味は理解出来るはず。
しかし……。
「雷神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めん」
普段通り、単調で抑揚の少ない口調。但し、故に、今のふたりの間に漂う雰囲気を巻き込み、より一層、空気を重い物へと変える彼女の言葉。
何時もの……次元を超越しようと、時間軸が違おうと変わりのない彼女の瞳に、真っ直ぐに見つめられる俺。その深い、少し潤んだ瞳に曇りも、そして迷いも今は感じる事はない。
タバサから始まり、湖の乙女へと繋がり、夢の世界で出会ったシャルロットから長門有希へと辿り着いた無機質不思議ちゃん系の基本。ただひたすら俺の瞳を覗き込むようにして問い掛けを行う有希。
何時も……と言うか、他者に対する時と俺を見つめる時の僅かな違いは、その微かに潤んだ瞳。少なくとも俺を見つめる時の彼女らの瞳は、ほんの少し潤んでいると思う。そして、俺以外の他者を見る時は、路傍の石を見る時と同じような瞳。確かに、俺以外を相手にする時のタバサは何時も眠そうな瞳……半眼に閉じた瞳とも表現出来るので、表面上は少し分かり難いのですが、有希と万結はまったく同じように思える。
もっとも、これは俺が彼女らの心の動きが分かるが故に、他者を見る時の彼女と、現在の彼女の違いが分かる、と言うレベル。
他の人間から見ると、彼女らの多くがメガネを掛けているトコロから、その違いは絶対に分からないだろう、と言う微かな差異でしかない。
「先ずはありがとう、と言うべきなんやろうな」
俺を必要としている。……と彼女が言ってくれたのですから。
矢張り、誰かに必要とされるのはかなり嬉しい。まして、それを現実の言葉として発してくれたのなら。
確かに俺は気を読みます。故に、彼女やタバサが発して居る俺に対する感情は強く伝わって来ます。……ですが、それは俺がそう感じていると言うだけ。それを現実の言葉として聞かされるのとでは、矢張り大きな違いがありますから。
特に言葉数の少ない彼女らからならば。
自由な方の左手を彼女の頭に再び置く。俺に触れられている時の彼女からは陽の気。多分、安心や幸福などを感じさせる雰囲気を発せられるので……。
これを彼女の方から拒否する事はあり得ない。
先ほどのただ経絡を刺激するだけの軽い圧迫を加えるような、ある意味乾いた触れ方ではない、……何と言うか、髪の毛一本一本を優しく愛撫するかのような触れ方
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