Chapter 4. 『堕ちてゆくのはぼくらか空か』
Episode 23. Rainy, Sandy
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のために今回の依頼を受けた一護は、珍しく機嫌良さげにしている。
「あの仏頂面も、けっこう気が利くじゃねえか。リーナ、なんか食うか? せっかくだし、夜食でも作るぜ?」
「……え? 夜食?」
「ああ。流石にもう夜九時だし、重たいモンは作れねえけどな」
言われて視界の端を見ると、時刻は午後九時二十分を過ぎた所だった。ホームに帰ってきたのがだいたい午後二時半くらいだったから、七時間弱眠っていた計算になる。これはもう昼寝のレベルじゃない、ガチ寝だ。どうりでお腹がいつも以上に減ってるわけだ。
「……一護、私まだ夕ご飯食べてない」
「はぁ!? マジかよ、ホントに一日寝てやがったのか……ったく、仕方ねえ。ちょっと待ってろ。なんかテキトーに作っから」
かったるそうに腕を廻しながら、キッチンへと入っていく一護。文句を言いつつも手間を引き受けてくれた彼を見ていると、いつもの軽口が出てこない。
「……えっと、なにか手伝う?」
「あ? 要らねえよ。その辺に座っとけ」
「食材の整理とかは?」
「それも俺がやる。オメーは食う専門だろ。作る側に余計な気ぃ使ってんなよ」
「……ごめん」
なんとなく申し訳なくなり、小さな声で謝る私。それを見て、一護は食材を切る手を止め、眉根をひそめてこっちを見やった。
「なんだよ、さっきっからオメーらしくもねえ。変な夢でも見たのか、昼寝のしすぎで。それともまだ寝ぼけてンのか? いつもの減らず口はどこ言ったんだよ」
手にしたナイフの動きを再開させ、ヤンキーシェフは料理を続行する。色とりどりの野菜がカットされ、鍋へとなだれ込む。
「俺は俺にできることをやってんだ。オメーが気にする必要なんざ一欠片もねえ。だいたい、そんな細けえことを気にする仲じゃねえだろうが」
――じゃあ、どんな仲なの?
言いかけて、寸前で自制する。
「……ん、それもそう。じゃあ、お言葉に甘えてメインディッシュに高級ステーキを所望する。付け合せのグラッセも忘れずに」
「作り始めてから言うんじゃねえよ! つーか、その注文は細かくねえだろ!! やるならもっと慎ましく強請れ!!」
「私が食事で慎ましく? 有りえない、断じて有りえない」
「自信満々に断言してんじゃねえよ!!」
ようやくいつもの調子で交わされた軽口の応酬に、少し安堵する。私の心の底がどうであれ、今はまだ、このままでいい。この距離感の心地よさを、まだ味わっていたい。
例えこの先、この距離が変わらずとも――縮まることになろうとも。
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