Chapter 3. 『世界を変えた人』
Episode 21. Good Bye, Black Cat
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美味しいもの作って、スキルも上げて、レパートリー増やして……いつの日か、一護さんに毎日食べてもらえるようになれたらな……なんて、ね」
「ココまで食いに来いってか? すげえ自信だな」
「私が作りに行ってもいいよ、毎朝毎晩」
「そりゃありがてえけどよ、オメーにいいことなんて一つもねえぞ? 俺なんかより黒猫団の連中とか、食い意地張ったリーナとかに食わしてやれよ」
「ううん、いいの。一護さんが食べてくれれば、それで。
何日何か月、何年かかっても、いつかきっとそうなれる。そう思うだけで、私は頑張れるから」
……ちょっと、遠まわしにいろいろ言い過ぎてしまった感がある。
ひょっとして、バレちゃう、かな?
一気に緊張が押し寄せてカチコチになる私だったけど、幸い(?)にも一護さんは言葉の意味を勘ぐるようなことはしなかった。ガリガリとオレンジ色の髪を掻き、そっぽを向きながら、
「……まあ、オメーがいいなら、それでいいけどよ」
「ほ、ほんと!?」
思わず身を乗り出す私に、一護さんはいたって平静なまま頷いてみせた。
「戦線から退く背中を押したのは俺だ。そのオメーがやる気になれるってンなら、料理くらい幾らだって食うさ」
「……ありがとう」
「別に、礼言う程のことじゃねえよ」
「それでも、ありがとう」
貴方の言葉には、それだけの力があるから。
心の中で一言、そう付け加えて私は前に向き直る。明々と燃える焚き火に照らされて、誰かがこっちに手を振るのが見えた。
「おーい! 一護君、サチさん!! こっちで一緒に飲もうじゃないか! 夜はまだ長いぞ!!」
喧騒の中でも一際通る、爽やかな声。ディアベルさんだった。よく見ると、その脇にはケイタがヘッドロックの体勢で捕まったまま、ジタジタともがいている。
「ったく、ノンアルのクセに、相変わらず酒癖のわりー奴だ……サチ、ウザかったらシカトしていいからな。アイツは昔ッからああなんだ」
「ううん、私もちょっとしたら行くよ。先に行ってて」
「そうか。んじゃ、後でな」
そう言い残し、一護さんは皆のところへ戻っていった。炎の朱色に飲み込まれて、彼の後ろ姿が真っ黒に染まっていく。
他のみんなと同じ影法師になっていくのを、私はただ見送っていた。追いかけてもよかったけど、今はまだこのまま、彼の背中を見ていたかった。まだ、彼にもらった言葉の残響が、私の中に残っていたから。
一護さん。
殺風景に変わってしまった私の世界に、もう一度色を与えてくれた。夜に灯る、満月のような人。
記憶の中で一番眩しい、あの夜に見た本気の彼。その姿に焦がれて、私はそっと目を閉じた。
名を呼ばれるだけで、嬉しくなる。
想うだけで
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