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101番目の舶ィ語
第一章。千夜一夜物語
第一話。『対抗神話』
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「あぅ、く、ああああっ??」

一之江の苦しみ方は尋常ではない。胸を抑えて、目を強く閉じ、(フェンス)に必死にしがみついている。
何が起きているのかを確認するまでもない。


『対抗神話』。
それは。
______『噂』によって、『実体化』する都市伝説である存在。『ロア』を『消滅』させる方法。

その力を理亜は一之江に向けているのだ。

「や、止めろ理亜??」

おそらくだが、今理亜が語っている物語は『メリーさんの人形』を打ち消す為の対抗神話。
つまり、その続きを読まれたら……『メリーさんの人形』の物語は解決してしまう。
その意味するところは……一之江が消滅する可能性があるということだ。

「う、あ、ああああああ!」

一之江がこんなに苦しそうな声を出すなんて、今まで想像すらできなかった。
いつだって気高く、慇懃(いんぎん)無礼(ぶれい)で、余裕を持っている一之江が。
今は口から搾り出すような悲鳴を上げているんだ。


「止めろ理亜!」

俺の叫びもまた、悲痛な哀願になっていた。
なんでだ?
どうして?
なぜ?
理亜がこんなことを。
いや、とっくに理由は解っている。
一之江が先にしかけたから。
理亜はそれに応じただけ。
正当防衛。
襲われたから、危険な対象を排除する。
それは当たり前の考え方だが、だが……それでも。
それでも、俺は認めたくない。
あんなに優しい理亜が容赦も躊躇いもなく、一之江を消そうとしているなんて。

『……ふむ』

そんな俺の声が届いたのか、どこからともなく響いてきた理亜の声は、夜話を読むのを止めてくれた。
助かった、と、ホッとしたのも束の間。

『兄さんにとって、一之江さんがどれほど大事なのかは解りました。では次は……』

「つ、次だと??」

(おいおい、何の冗談だよ??
これは夢か? 夢なら覚めてくれ!)

理亜は夜話を読むのを止めたわけではなかった。
ただ、読む対象を変えただけだ。
俺にさらなる絶望を与える為に。

「や、止めて、理亜ちゃん! 見せしめなら、ロアである私がなるから??」

と、愕然とする俺を他所に音央が虚空に向かって叫び。

「音央ちゃん??」

俺以上に驚きの声を上げて鳴央ちゃんが叫んだ。
音央だって、鳴央ちゃんだってさっきの戦いで傷ついているのに。
それでも頑張って、踏ん張って立っているのに。
音央も、鳴央ちゃんもお互いがお互いを支えあって辛うじて立っているのに。
それなのに。

「元々あたしはいない存在だもの。こういう時は、ハーフロアのあんたたちより、あたしがそういう目に遭うべきだと思うの」

「そ、そんなの、いけませんっ??」

「ふざけんなよ、音央
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