暁 〜小説投稿サイト〜
彼に似た星空
7.五月雨の誓い
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 私達3人はフェリーの甲板に設置されたテーブルでティータイムを堪能することにした。今までは戦場でしかなかった海だったが、今こうやって穏やかな気持ちで紅茶を飲みながら眺めると、なんて美しい場所だったんだろうと思えた。頬を撫でながら駆け抜けていく潮風、太陽の光を反射してキラキラと輝く海面、遠くに浮かぶ緑の島々…今まで見慣れていたはずの光景のすべてが美しく、愛おしいものに思えた。

 五月雨が準備してくれていた紅茶とショートブレッドは、まさに私が提督に教えたままのものだった。五月雨は、自身が思っている以上のドジっ子だ。どれだけ料理に集中していても、100%の成功というのを私は見たことがない。必ずどこかで失敗をする。ショートブレッドであれば、焼き過ぎで消し炭にしてしまうような小さなものから…一番ヒドい時はオーブンの爆破まで、およそ予想できる類の失敗はすべてやらかしている。一体なぜそんな失敗が出来るのかと逆に興味が湧くほどの失敗も日常茶飯事だ。提督がそれを咎めることはなく、逆に『次はどんな失敗をやらかしてくれるのか…』と楽しみにしていたぐらいだった。そしてその度に五月雨はほっぺたをふくらませて、ぷんぷんという擬音が似合うかわいい憤慨を見せていた。

 そんな五月雨が、一辺の狂いなく、私が提督に教え、提督が五月雨に教えたままのものを作ってきたのだから、私は相当に驚いていた。

「五月雨も成長したんデスネ〜…紅茶もショートブレッドも美味しいデース」
「五月雨ちゃん…相当がんばってたみたいですよ? 今朝紅茶とショートブレッドを受け取ったんですけど、手にちょこちょこ火傷の痕がありました」
「五月雨…がんばったんデスネ〜…」
「今日から別の鎮守府に異動だったのに、五月雨ちゃん 、昨日の晩から寝ないでショートブレッド焼いてたんだって。“絶対に金剛さんに食べてもらってください!!”て言われたら、そりゃねぇ」

 そう。五月雨は海軍に残ることを選んだ。あの日五月雨は、提督の死を目の当たりにした。その時は、彼女は壊れてしまったと誰もが思うほどの憔悴を見せていた。数日の間は、誰かがそばにいなければ取り乱し、泣き喚き、提督の後を追おうとしたこともあった。

 しかしある日、五月雨は立ち直った。まっすぐに私を見据え、彼女はこう言った。

――提督は、私達をいつも守ってくれました。
  提督がずっと守ってきたものを、私も守りたいです。
  提督を守れなかったから、提督が守りたかったものを、私は守り通したいです。

 私には、それが五月雨の真意なのかどうかは分からない。もしかしたら、提督がいなくなってしまったことからの自暴自棄なのかもしれない。ひょっとしたら、そうやって強がっているだけで、心の奥底ではまだ提督の死を受け入れられず、ずっと泣き続けているのかもし
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ