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彼に似た星空
7.五月雨の誓い
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れない。

 それでも、私には彼女が眩しかった。嘘であれ強がりであれ、生きる目標を見つけた五月雨を、私はその時羨ましいと思っていた。

――私を助けてください
  比叡と榛名を沈めた自責の念から、私を救い出して下さい
  彼を失った痛みから、私を守ってください

 昨日、霧島の携帯に電話をしてきたのは五月雨だったようだ。彼女は私たちに対して何か思うところがあったようで、私から提督へ、提督から五月雨へと受け継がれた紅茶とショートブレッドを渡すよう霧島にお願いしてきたという。加えて、無理やりでもいいから私の旅に同行するように…と霧島と鈴谷に連絡をしてきたらしい。

 五月雨は練度で言えば二人を軽く越し、私に次ぐ鎮守府でも第二位の練度を誇っていた。夜戦であれば、私ですら五月雨を捉えきることは出来ない。その実力の高さと、まさに可憐としか形容のしようがない性格、加えてドジっ子という愛すべきキャラクターのおかげで、鎮守府の中でもとりわけ皆から慕われていた。彼女の言うことなら、鎮守府の皆は大抵の事なら素直に従っていた。

「五月雨は他には何か言ってなかったデスカー?」
「青葉にも連絡してたみたいだよ? 予定が詰まってるからって断られたって言ってたけど」

 青葉が断った本当の理由を私は知っていたが、私は何も言わなかった。

 しかしこれで確信が持てた。おそらく五月雨は、あの日私が心の中で叫んだ声が聞こえたのだ。私の声が聞こえたから、わざわざ私に提督の紅茶とショートブレッドを食べさせ、霧島と鈴谷というあの時のメンバーを私によこしたのだ。

「やっぱり五月雨にはかなわないデス…ありがとう五月雨…」

 恐らくは霧島にも鈴谷にも真意が読めない独り言が自然と出た。私が提督との約束を果たすことでどんな答えを導き出せるのかは、ハッキリ言って分からない。しかし、私は彼との約束を果たしたいし、五月雨もそれを望んでいる。霧島と鈴谷という心強い仲間もいてくれる。青葉も私の背中を後押ししてくれた。

「お姉様! 見て下さい港がもうあんなに遠いですよ!!」

 霧島がさっきまで視界にあったはずの港の方角を指さした。確かに、出発した港との距離はもうだいぶ離れていた。

「ぉお〜、フェリーとやらも案外速いんだねぇ〜」

 鈴谷がいたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言い。確かにそうだと私も思った。体感的にどれだけ遅いスピードであったとしても、時が経てば、物事は意外と進んでいるものだ。たとえそれが、歩を進めた本人たちも気付かないような、極めて遅いペースであったとしても。

 目的地まではまだまだ遠い。今晩はこのままフェリーで一泊する。提督の生まれ故郷に着くのは、明日の夕方だ。
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