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乱世の確率事象改変
魔女の想い
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部隊長の一人であるあなたが代表として、私の命令を受けたいと……そういうから。

「狂い切って無かったら俺達が止める。手足の一本ぶった切ってでも止めてやらぁ。黒麒麟と一番戦い慣れてるのは俺らだから、此れは俺らにしか出来ない仕事でしょうよ。
 でも、捕まえても叩き潰しても、何をやっても狂い切ってどうしようもないその時は……」

 いつでも最悪の場合まで考えておかなければ、彼らは彼ら足り得ない。
 否定せず、私は現実を受け止める。分かってる、彼が狂い切っているその時は、平穏な世界には害悪でしかなくなるのだから。

「“徐公明と御大将”の願いの通りに……」

 あの人と彼が望んでいたこと。絶対に起こすつもりはないけども、私も彼と同じように最悪の場合を想定しておかなければならない。

「黒麒麟は……俺達が殺します」
「……よろしく、お願いしますね」

 それがどれだけ、残酷な世界になろうとも。彼が思い描いた平穏は、もう皆の胸の中にあるのだから。
 彼を愛するというのなら、狂った彼を止めなければならない。

――だから私は彼らと共に、彼を……

 戻ればきっと、彼は私を見ないだろう。
 絶望の底を覗き込んだ闇色の瞳の中に私は居ない。見てくれない。
 抗い続けるのが彼の本質だ。想いが繋がった私よりも、彼は彼の思い描く道筋の方が大切なのだから。



 だけど、ほんの些細な希望も捨てたりしない。
 詠さんが呼びかけて戻れたというのなら、皆で呼びかければ戻るはず。
 華琳様が道化師と呼ぶ徐公明と混ざり合ったのならきっと……此処で繋いだ大切な想いを思い出すはず。
 死せる想いを掬いながら、生ける想いを救えるはず。

 その時に、彼に私が伝えよう。
 彼の真実に対する予想を、伝えよう。

 あの予言のおかげで、彼を世界の異端と呼んだ戯言のおかげで、彼の正体の欠片がまた手に入った。
 天に与えられた役割は劉備軍の勝利なのかもしれない、と。
 劉備をこの乱世で勝利させることこそが、彼の矛盾の原点なのかもしれない、と。

 成り上がり劇はまるで物語のように語られる。都合のいい世界なんてモノは、本来有り得ないはずなのに。
 古くからの王族と、才に溢れる強大な覇王を相手にして……潰されてしまいそうな仁徳への救済を。
 そんな物語を、皆が救われて欲しいと願う仁徳の勝利する世界を、天は望んでいるのだろう。

――それが世界の選択だというのなら、私が共に天に抗います。

 不穏な雲の掛かる空を見上げながら、心の中に決意を一つ。

 私は世界の敵でいい。
 小さな魔女、と出会った時に彼は呼んだ。 
 なんとも皮肉だが、おあつらえ向きだった。

 私は、天の下した命に従う彼を誑かす、魔女になろう。

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