魔女の想い
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「にひ……白紙だよ? その手紙」
白紙の手紙など普通は意味がない。しかしその香りがするということは……私をいつも苛立たせるあのバカのモノということか。
「届けた隊員の番号は?」
「千百一番。第四で馬が一番速い奴だと思う」
「そう……そういうこと。明――」
「はいはーい♪ んじゃあこの器の上で……っと」
続きを語らずとも彼女の準備は万端。懐から取り出した器にいろいろとモノを並べて……カチリと二つの石を擦り合わせた。
草と松やにが赤く染まった。手慣れた火付けによって、小さく炎が生まれた。
明が袁家虐殺から帰って来てから“黎明”というモノを作った。影の仕事を割り振る担当部署として。
何故か長を室長と名付けたが、勝手につけたのはいつも通りあいつだ。
その部署の用途は多岐に渡る。汚れ仕事に従事していて器用になんでも熟せる明はまさにうってつけであり、補佐に七乃を付けているので情報に関しても隙が無い。
話がずれた。
その黎明の室長である明は……この手紙の意味を当然に知っている。
軍師達にも話していない密書送付手段の一つ。知っているのは雛里達三人と明、七乃くらいか。
信じていないわけではない。いつかは彼女達にも教えることになるだろう。あくまで私の可愛い妹の軍の手段として使わせたいから形式上は此処までというだけ。
あのバカが知っていたモノで有用な手段は幾つもあったが、此れは私のお気に入り。
――やっぱり炙り出し……か。
果物の汁で書かれた文字が、火によって浮かび上がる。紙を火で炙ろうなどと誰が思いつくのか。面白くていい案だった。
これなら他国に細作が捕えられてもバレることはない。白紙の紙を予備としていくつも持っているし、紛れさせれば見分けもつかないし気付かない。
果物の香りがする、というのも美しいし風情がある。砂糖水などでも代用できるらしいが。
全体を炙り切って幾分、ふっと火を吹き消した明が目で問いかけていた。覗いてもいいか、と。
彼女が上機嫌だった理由はこれ。あのバカからの手紙だったからで間違いない。いつも邪魔をしてくるあいつに対しての苛立ちを抑え付けて、私は頷いてから目を通していった。
手紙の内容は……予定とは大幅にズレた自分勝手なモノ。
益州を攪乱する為に西涼への参加が遅れるかもしれない、と。
劉備軍による横槍封じも目的の一つであり、益州内部での事案に縛り付け、その内来るであろう総力戦で兵力低下をさせる意味合いもあるらしい。
記憶の喪失をばらすことは止めたようだ。その代わりに劉備の心と臣下達の心をかき乱す方を取ったとも書いてあった。
あいつの判断なら任せてもいい。隣の詠が是としたということは、それをすることで後々の利が大きくなるに違いない。
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