魔女の想い
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「かーりーんーさーまーっ♪」
遠くから聞こえてくる声は小気味のいい高さ。竹簡に走らせている筆を止めてその方を見やる。
幾人か使者にやっているからこの城も随分と寂しくなった。そんな中でも彼女が楽しそうなのは変わらない。
此処での生活になれたらしい彼女――明が勢いに反して静かに扉を開いた。
「にひ、来ちゃったー♪」
「騒がしいわね。平常時の廊下は走るモノではないわよ?」
「だってー、嬉しい報せが届いたんだもーんっ」
くるりと一回転。手に持っている紙の束を抱き締めて彼女は赤い髪を揺らした。
愛らしい仕草。この子はあざとい。私の欲情を挑発しているのだ。無邪気に振る舞っているように見えて誘惑に長けているこの子は、百合の花に浸り切ってきた経験者。本当に……可愛い子。
直ぐにでも寝台に押し倒してもいいのだけれど、今は仕事中。そろそろ私と閨を共にしてくれてもいいと思う。ひらりひらりと躱されてまだ叶っていないのは焦らし上手なのかどうなのか。
この子にとっての絶望の日にあのバカとどんな夜を過ごしたのかも、誰にも教えようとしない。自分から聞くのは癪だからしてあげないが、少し腹立たしい。
「“黎明”室長のあなたが私に直接届ける程の報せなら“嬉しい”ではなく“重要”の間違いでしょう?」
「あたしにとっては嬉しくても華琳様にとっては普通の報せかもしれないじゃん? どうしよっかなぁ……華琳様から“お誘い”してくれるんなら……渡してもいいけど♪」
次に行われるのは腰を屈めての上目使いと赤い舌。ふりふりとカタチのいい胸とお尻を揺らして……誘ってる。欲求不満なのは彼女の方。暗い部分を任せているとは言っても、長い間暗闇の中に溺れてきた彼女はそろそろ“そちら”の方でも我慢が出来ないということ。
その手には乗らないわよ、明。“あなたが”私に跪かないと意味が無いのだから。それに私はね、待つのは嫌だけど焦らすのは嫌いじゃない。
ふっと息を付く。見下してやれば彼女は……残念そうに、それでも嬉しそうに舌を出した。
「安い挑発ね、明?」
「えー、残念。じゃあコレはいらないんだ?」
「あなたがそうだと判断したのならいいわよ。重要ではないのなら直接処理しなさい」
これで私の勝ち。桂花ではあるまいし、私にその手は効かない。
言い切れば明は唇を尖らせて不足を示した。
「ちぇっ……華琳様ってば冷たいんだー」
それでもしっかりと紙束を渡してくれる当たり、この子も何が重要かは分かっているらしく。それでこそ苛め甲斐があり、可愛げがある。
ただ、機嫌の良くなっていた私の心がその手紙によって落ちた。受け取った途端、その紙束からいい香りが漂ったのだ。
明の表情がにやりと不敵に変わる。
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