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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 24.
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体も同じ方向に動きたがるのだから。
 よもや、クロウの感情が引き金となって懸念していた発芽が起きようとは。アイムも驚いただろうが、促してしまった当人も困惑している。
 幸い、左目の視野はそれなりに確保できる状態だった。顔の右半分から受ける影響があるなりにも。
 頼りになるのは、左目が捉える正面とそこから左方向にかけての視界だけだ。左目が把握する右方向には得も言われぬ光景が広がっており、首の向きを変えても障害物が占める可視範囲に増減はない。
 得も言われる光景。例えるならそれは、巨大な花束を水平方向に構え束ねた部分を右の眼球前に据えた状態によく似ている。
 右の視野は一面その束のみで占められ、発芽の起点が眼球の3センチ程先なだけに近景へと焦点を合わせる気が失せる。何しろ視界中央から眼球に、棘の付いた植物茎が迫っているのだ。頭でわかっていても、先端に警戒し景色を排除したくなる。
 その束の起点と末広がりを成す形を、左目が右方面の視野情報として捉えていた。
 左右の視差は成り立たず右の近景が目障りなので、クロウは右の瞼を閉じ続けるべく右の掌を瞼に重ねた。
 自身の姿を顧みる。まるで、眼帯をしたロックオンだ。
「俺自身に危険は無いって、結構微妙な境界だろ…」昨夜聞いた爆笑の意味を悟りつつ、クロウは息を吐いて気を取り直す。「おい、アイム。まだ生きてるのか? そっちはどうなってる?」
『ク…、クロウ・ブルースト…。生身のあなたが、無事、なのですか?』
 頻繁に息をつく声音が、苦痛を隠そうともせず耳元で囁いた。
 牡羊座機のコクピットにいながら、強い疲労に襲われてでもいるこの様子。昨夜のように、怪植物がアリエティスとアイムからエネルギーを吸収している真っ最中なら、ZEXISにとっては一大事だ。
「ああ。俺の方はな。見えてないのか?」
『モニターに、顔が向け、られないのです。…音声ならば、かろうじて』
 位置座標が同じ為、アリエティスと同じ事がアイムにも起きたという事か。尋ねにくい内容を承知の上で、敢えて1つ質問をする。
「食われている最中か? 正直に言えよ」
『いえ…。抵抗中、というところです。ここは、アリエティスと、私の世界。…あの者共の領域や、バトルキャンプとは違って、アリエティスを直接、捕らえる事は、できないのです』
「元々襲われる危険はあったから、この場所を利用する事で1つ保険をかけたのか」
 アイムはあの怪植物の主に追われている身だ。護身の為の保険自体を責める訳にもゆかない。ZEXISとてその辺りの事情は十分理解している。
 素直に話せばいいだけなのに、何故発想が途中から歪むのか。まるで、螺旋を描く羊の角のような思考だ。
「何とか踏ん張れよ」と、取り敢えず応援はしてやる。クロウがこの赤い異世界から脱する方法は虚言家しか知
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