月下に咲く薔薇 24.
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れは!?』何が苦しいのか、アイムのくぐもった声が切れ切れに届く。『クロウ・ブルースト!! よもや、異物の方を、選ぶとは!!』
「え…?」
選んだ覚えなどない。慌てて反論しようとし、言葉を飲み込んだ。
拒絶をした瞬間なら、確かに心当たりがある。その時、拒んだものと拒まなかったものがはっきりと分かれてしまったのだろう。
決め手は、今どちらをより危険な敵としてクロウが認識しているか、に尽きる。
昨夜会話をした女性の声は、異物が発芽しクロウの体内を食い破る心配はないと仄めかして消えた。アポロは先程、異物を嫌な感じのするものと分類している。些か食い違ってはいるが、いずれも5分、10分先の不安を煽る言葉ではないという部分で共通してはいた。
一方、アイムは『揺れる天秤』との共振を望み、またもZEXISを騙して場を整えている。信念に基づく大塚の判断と決意までもを侮辱した上で。
心のどこかで望んだ気がする。今のアイムを異物に触れさせたくない、と。
植物の生長がぴたりと止まった。
掌をはずしそっと右目を開けたが、再び閉じる。やむを得ず左目の視野のみを頼りとし周囲を観察すると、怪植物の出現前と後で風景の違いは歴然だった。
伸びた茎は枝葉を従えたまま互いに絡みあい、出入り口のない籠を器用に編み上げている。出現点たるクロウは、その中に閉じ込められている形だ。
籠の中は、ブラスタのコクピットより一回り大きい程度。その空間が赤く鈍い光にぼんやりと照らされていた。異変前とさして変わらない光量のまま。
もし、光源が今尚アリエティスならば、30メートルを超える機体が籠の内ばかりか外側までも同時に照らしている筈だ。実際に、茎の編み込みが粗いところからは大きな葉の間を縫いかろうじて外の赤い世界を垣間見る事ができた。
茎の直径は3センチ近くと、市販のバラに比べると倍以上の太さがある。その為、葉のサイズも小さなもので顔以上。昨夜はブラスタを空中に留め次元獣もどきという塊として認識していたので、対人間という比較にはならなかった。
改めてクロウ自身の危機的状況として周囲を見回すと、植物製の籠に囚われている虫の気分になる。
この茎は、今も実体がないのだろうか。試しに、左手を籠の編み目へと押し出す。
人差し指と中指の間から、甲へ。葉の1枚も揺らす事なく枝の付け根が移っていった。
手、植物共に不透明なので、手の甲の中央から幾分細い茎と5枚の葉をつけた枝が突然生え出しYの字に分岐して見える。余り気持ちの良い風景ではない。
腕を引き戻せば、いつもの左甲に早変わりする。その際、感触というものと無縁なのは植物の出現直後も今も同じだ。
体は四肢を含めその全てが自由になるが、生憎と籠からの脱出は叶わなかった。何しろ、クロウの体が移動するのに合わせ籠自
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