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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 24.
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「スメラギさん! 俺が確認できるか!?」
 クロウは咄嗟に手元の携帯端末に呼びかけるが、応答はなかった。
 無言の端末を眼前に翳せば、今のクロウが完全な孤立状態である事を裏付ける表示が出ている。トレミーとの通信が確立されていないのだ。
 ゆっくりと落下が終わる。
 足の裏には未だ何も感じるものが無く、光量の不足している赤い無重力世界にクロウただ1人が浮いている。
 幸い、縦移動は青い異世界で体験したものより遙かに短時間で終わった。精々ビルの5階から1階への落下程度だ。
 最終的に着地を味わった昨夜に比べ足の裏は落ち着かないが、無重力なら宇宙に出る度に人類全てが味わうお約束ときている。恐怖は皆無で、騙されたという憤りばかりが炎を上げた。
 広いのか狭いのか、よくわからないところがある。無重力故、外気よりも暖かな空気は対流というものを知らず、無風と静寂がクロウの周囲ばかりか全体をどんよりと満たしている。クロウは思わず、瓶の中のような小空間を想像した。
 但し、閉じられた狭い空間と断定するのは早計だ。横方向にばかり1キロ先まで続いている可能性もあるのだから。
 静けさがすぎて、むしろ気が張りつめてゆく。
 先程まで聞いていたアリエティスの動力音さえ聞こえないのだから、アイムはZEXISを騙し、クロウ1人だけを異空間に放り込んだのかもしれない。
 とはいえ、ストーカー紛いの男がする事。発する声はあらゆる手段を講じ絶対に聞き取っている筈、との妙な確信がクロウの中には存在していた。
「アイム。何処だ?」
 試しに呼びかけてみる。
『あなたの側ですよ。息がかかる程近くに』
 案の定、明瞭なアイムの声がした。
 切れの良い声質は、息の圧力までもを耳たぶに感じそうな鮮明さを含んでいる。クロウは思わず肌を粟立たせ、反射的に周囲を見回した。
 相も変わらず、赤く染まった薄暗い空間には自分1人きりだ。流石は虚言家。さっそく1つ嘘をついた事になる。
「側にいる? よく言うぜ。見えないぞ、お前もアリエティスも」
『ええ』喜々とした男の声が、まず短く肯定する。『この空間には、距離という概念が存在しません。あなたのいる位置がアリエティスの位置であり、私の位置でもあります』
「ここにてめぇが? …気持ち悪いな」
 嫌がらせのつもりで発した本音に、アイムは全く反応しなかった。
『私とアリエティスのみで取り出しを試みる事になりましたから。より成功する確率の高い方法を選んだまでですよ』
「はぁ? バトルキャンプ上空で、って自分から持ちかけたんだろ。どうにも通常空間には見えねぇし、こんな所に来なけりゃ確実に出せねぇのか」
『ブラスタが使用できないのですよ。私の苦労を察してください。この空間で試みたとしても、確実などという成功率になるかどうか』
 宿敵
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