Chapter 3. 『世界を変えた人』
Episode 18. The Advance of Black Cat
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こと。傷つくのが、死ぬのが怖いこと。不安が大きすぎて、睡眠すらもままならないこと。涙で何度かつっかえながらも、時間をかけて、ゆっくりと己の弱さを私たちに吐露した。
サチが戦いに怯えや恐怖を抱いているのは、ここにいる全員が、いや、黒猫団の訓練に関わった全ての人が知っていた。前衛に、戦闘に、そもそもSAOに向かない臆病な女性であると。だからこそ、ディアベルを始めSSTAの指導員たちは彼女の克己心を高めようと努めてきたし、黒猫団のメンバーも一緒に頑張ろうと励ましていた。
けれど、結局それが実を結ぶことはなかった。結ぶはずが、なかったのだ。
彼らがサチにしてきたことは弱いけど強くなりたい人のための訓練であり、強くなることを望まない彼女の心にそれが響くわけがない。困難に立ち向かう力を勇気と呼ぶのなら、彼女に必要だったのは恐怖をはね除け立ち上がる「戦う勇気」じゃなくて、仲間に自分の弱さをさらけ出してでも身を退く「戦わない勇気」だったんだ。泣きじゃくるサチと、仲間の苦しみに気づけなかった悔恨でやっぱり号泣する黒猫団の面々を見ながら、私は一人そう感じていた。
彼女の背中を押した張本人であろう一護は、サチの部屋には来なかった。別にサチが拒んだわけでも、一護が面倒がったわけでもない。サチが私たちを自室へ誘うのと同時に彼はどこかへと姿を消してしまっていた。サチも別段気にした風ではなかったし、涙ちょちょぎれる会見が済んで再合流した後も、どちらも変わった様子は無かった。
二人がそろった時に、何があったのか訊いてはみたが、
「えっと、一護さんから話してほしい、かな」
「俺が話すことじゃねえよ。自分の問題だ。手前が話せ」
と押し付けあって埒が明かず、結局聞けずじまいになってしまった。二人の間には気まずい空気がなかった以上、言いにくいってわけではなさそうだけど、それでも話してくれそうにはなかった。私も、必要になればその時に放してくれるだろうと考え、それ以上は突っ込まなかった。
ただ、サチが一護に向けた微かな笑みだけが、少し気になった。別に何か含みのありそうな表情ではなく、普段の彼女とそれと差異はなかったけど、その目に宿る光だけがいつもと違っているように私には見えた。まるで流れ星でも見つけたかのような、何かを願うような、子供じみた憧憬と幸福の混じった色が彼女の黒瞳に映って見えたのは、きっと気のせいではないと思う。
それについて、多少は思うところがある私だったが、そんな曖昧な感情を気にするよりももっと重要な課題が目の前にはあった。
サチの本心が知れた以上、彼女を戦線に出すわけにはいかない。必然的に、訓練に出るメンバーは男性陣の四人になった。それまではサチが形だけでも前衛を務めていたので、歪ながらも前
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