6.紅茶とショートブレッド
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提督の手は、指がしなやかで長く、爪の形も整っていて、見た目だけで言えば女性と間違ってしまってもおかしくない綺麗な手だ。その手が今、私の頭に触れ、私の頭を撫でている。
「こんな美味しいものを教えてくれてありがとなー金剛。今度ちゃんと教えてくれよ?」
「あぅ…わ、わかったデース…」
まさか本当に頭を撫でてくれるとは思わなかったから、提督のこの行動は不意打ちだった。“撫でろ”と挑発したのは自分だが、実際にこうやって頭を撫でられると本当に恥ずかしくて、顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
でも同時に、提督の手が自分の頭に触れ、そして撫でてくれるというのは、自分が想像していた以上に心地いいものだった。比叡の『お姉様の頭をなでなでッ?!』という悲鳴も、あまりに突然のことで席をガタッと勢い良く立ち上がる榛名の行動も、すべてが何か遠い世界での出来事であるかのように感じられるほど、私は提督に頭を撫でられて夢見心地になっていた。全身がポワッとし、フワフワと中空を漂うような心地いい感触に、私はしばし夢中になった。
そこからが大変だ。ティータイムはちょっとしたカオスな状況となった。
「わ、私もお姉様の頭を撫でたいそして撫でられたい! 司令ばっかりずるい!!」
「お、おう…どういう理屈だ…?」
「榛名も…提督に頭を撫でてもらいたいです…」
「お前もか榛名…霧島〜助けてくれ〜」
「どうにもなりませんね。榛名の頭も撫でてあげてください司令」
「きりしまぁ〜…」
「いやいやまてまて…お姉様に抱きつくのも捨てがたい…」
「うぅ…テートク…さ、サンキューね〜…」
「ん? もういい?」
「ん〜……いや、やっぱりもうちょっと…撫でてほしいデース…」
「ま、マジか……」
後日、私は自分のとっておきの茶葉のブレンドとショートブレッドの作り方を提督に伝授した。羊羹作りの時にその才能の片鱗を見せていた提督は、今回も割とすんなりとブレンドの配合と作り方をマスターし、執務室で時々私や五月雨にごちそうしてくれた。
これは後で五月雨に聞いたのだが、五月雨があまりの美味しさに紅茶のブレンドとショートブレッドの作り方を提督に聞いたところ、『金剛が教えてくれたんだ!!』と誇らしげに語っていたとのことだった。私の味と香りが提督に気に入られ、それが提督に伝わり、いずれはそれが提督独自のブレンドの基礎となり、味のベースとなるであろうことが、私にはなによりうれしかった。五月雨はそのことを教えてくれた後、珍しく『金剛さんがちょっとうらやましいです』と言っていた。
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