Chapter 3. 『世界を変えた人』
Episode 16. Red Heath after Black Cat
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んのかって思って立場を逆にしてみたんだが、へっぴり腰で振るわれるサチの剣が俺に当たったことは一度もなかった。俺はその場から一歩も動いてねえ、どころか、刀を中段に構えたままだってのに、だ。
そりゃそうだ。なんせ、ニメートル以上も離れたところ、多分いつもの長槍の間合いからおっかなびっくり剣を振ったところで、俺に届くはずなんかねえからな。市丸の斬魄刀じゃあるまいし。
勝手がわかるわかんねえ以前に、戦おうって意志が感じられねえ。これ以上やったって実りがねえのは分かりきってる。そう考えて、俺は構えたままだった刀を閃かせ、サチの剣に当てた。いきなり俺が動いたことにサチは驚きと恐怖の混じった顔を見せるが、剣を手放しはしなかった。そのまま二度、三度と斬り結び、四撃目で俺の斬り上げがサチの剣を跳ね飛ばした。固い地面に硬質な音をたてて落ちた剣を横目に俺は納刀し、腰に手をあててサチを見やった。
「俺の一本だ。勝利者権限で、一旦休憩」
「……え? でも」
「いいから、黙ってその辺座れ」
ふっ飛ばした剣を拾ってサチに手渡しつつ、近くにあったベンチを顎をしゃくって示してやる。ついでにストレージから非常用に携帯しているワインモドキのグレープジュースの瓶を二本取り出して、片方をサチに押し付ける。小さな声で俺に礼を言ったサチは、そのまま縮こまるようにしてベンチに座った。そこから少し離れた場所に、俺も腰を下ろす。
遠くの方で、リーナが檄を飛ばしながらケイタたちとやりあってる。あ、ダッカーが膝蹴り食らってふっ飛んでった。後ろにいるササマルを巻き込んでゴロゴロと転がってく二人に、追い打ちの踵落としがクリーンヒット。一応何やら指導はしてるっぽいが、傍から見りゃ完全に弱い者いじめじゃねえか。
呆れ半分でその虐殺行為を見ながら、ジュースの瓶を傾けていると、傍らで俯いていたサチが消え入りそうな声で、
「……ごめんね」
「別に謝ることじゃねえよ。やりたくもねーことやらせてんのに、やる気出せ、なんて身勝手なことは言わねえよ。気にすんな」
「ごめん」
謝んなっつってんのに、サチは謝罪の言葉を繰り返す。濡れ羽色の髪が、暗い表情の顔に影を落とす。手に握った瓶の首を、所在無げに玩ぶ。今までこうして生き残ってこれたってのが不思議なくらい、弱弱しい姿。その姿は、自分の非力を苛んでいるというよりも――
「……お前さ、戦うのが嫌なんだろ? 敵と戦ったり、傷ついたり、それで死んじまうのがよ。多分、はじまりの街から出たくねえってくらいに」
「え……なんで、そこまで分かるの?」
怯え十割だったサチの表情が、ちょっと驚いたようなものに変わる。訓練が始まってからずっと死んだみたいだった面構えに、初めて血の気が通ったように見えた。髪と同じくらいに濃い黒目が俺を見上げ
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